≪二節;互いを知る“士”≫
〔ところ一方変わって―――今回攻防戦のあったこの地、グランデルに駐留する事となった両州公は・・・〕
コ:(つぅぅ〜〜―――・・・)
カ:大丈夫ですか、コウ殿・・・。
コ:え―――ええ・・・なんのこれしき・・・。
それより、大事に至らなくて済んだだけでもよしとせねば・・・。
カ:ええ―――・・・。
(しかし―――あの奇妙な音を発する武器はなんなのだろう。
あんなものをまた持ち込まれては、手も足も出なくなる・・・)
〔今回攻めてきたカ・ルマの魔将・ワグナスが操っていた、奇妙な音を奏でる武器・・・
エストック『スクリーマー』
それによって身体的外傷は見られないものの、皆一様にして聴覚をやられており、士気が極端に下がる・・・と、言う、
いわば内面的に多大な影響があることを覚えたのです。
そして、そこへ―――〕
タ:お邪魔いたします―――
コ:(ぅん・・・?)おお―――これはタケル殿!! おなつかしや・・・
タ:これはコウ殿・・・暫らく―――
それで、そちらがジン州公であるカ=カク=ハミルトン殿でございまするな。
カ:ご高名―――承っております・・・。
〔そう―――そこへ現れたのは、今回の作戦を提唱し、見事、カ・ルマの軍勢を撃退させることに導かせたタケルだったのです。
ですが―――ここで一つ不思議に思えるのは、ギ州公・コウが、すでにタケルとは面識がある・・・と、いうこと。
でも、実は・・・以前のコウの注釈にもあったように、少し前に何者かと出会い、当時はフ国軍の中でも一・二の武を争うものであったコウが、
この何者か・・・に、諭されて、これからの世は“武”一辺倒ばかりではなく、“智”たる教養も身に付けねば・・・と、開眼をし、
それからというものは、軍務の合間にも片時として書物を外す事はなく、やがてそのことを(当時の)尚書令であったイクからも認められ、
ギ州の公に任ぜられたのが、事の顛末だったのです。
そう・・・その時に出会っていた“何者か”こそが、タケル―――なのです。
そして、今回の戦線を両州公から聞いたタケルは・・・〕
タ:ほほぅ―――その細身の剣から奇怪な音が・・・
カ:ええ―――それのおかげで、兵士たちの士気が格段に下がってしまって・・・
あれは、どうすることも出来ないでしょう―――
タ:ふぅむ―――・・・ならば、こういうのはどうでしょう。
これからまた近々あるであろう一戦・・・それに参加する総ての将兵に、一時的に聴覚を失ってもらう―――と、いうのは。
コ:なんと―――??聴覚を? それは一体どういう事でござるか。
タ:無論―――五感の一つである聴覚が失われれば、『平衡感覚』にも少なからずの影響が出てくる・・・
ですが―――それは 急に だったらの話しです。
カ:―――・・・つまり、そなたが申されるのは、ある特定の訓練を・・・と、云う事でしょうか。
タ:いかにも―――。
今回もまた失敗に終わってしまった、ガク州を攻略するこの戦線・・・
向こうが軍を立て直すには、もう暫らくかかりましょう。
ですが、この僅かな時間だけでもいい―――このやり様にあなた方が慣れていてくれれば、
ワシとしてもいくらでも策のあり様が立てられるというものです。
〔敵の魔将・ワグナスの操る『スクリーマー』には、両州軍とも手を焼かされていた・・・
そのことを聞いたタケルは、すぐさま対応策を打ち出したのです。
つまり、一時的に・・・これから次の防衛線までの間、五感の一つである聴覚を奪われた状態で、日常を過ごす―――と、いうこと・・・
でも、それは同時にとても不便である―――と、いうことは、百をも承知していたのですが、
あの耳の奥が引っ張られるように痛くなる感覚が、そのことのおかげで少しでも軽減出来るなら・・・と、いうこともあり、
早速その日のうちから、総ての将兵(両州公とも)に、その事が義務付けられる事となったのです。〕