≪二節;非難糾合≫
〔その一方―――こちらは、そのハイネス・ブルグの王都、ハイレリヒカイト城にて・・・〕
イ:(ああ―――・・・ジュヌーン・・・ジュヌーン・・・)(さめざめ)
リ:(はぁ・・・)ねぇ―――セシル・・・
セ:今は無理よ、リリア―――
リ:それは判るけど・・・けど――――
セ:―――――・・・・・。
〔自分の愛する者が・・・自分の目の前で惨殺されたことで、冷静さを失い、闇雲に突撃を掛けようとしたイセリア・・・
しかも―――そこにはもはやモラルというものは存在しておらず、次々と脱落していく『雪』配下の兵たちがいたのです。
そこを、寸でのところで全滅するのを救ったのは、“月”と“花”の軍だったのです。
すでに錯乱しつつあるイセリアを、セシルが無理矢理にでも彼女の馬の手綱をとり、リリアが殿(しんがり)を務めた―――
そう・・・つまり、最悪の事態だけは避けられたのです。
それにより―――その戦線に見切りをつけたカ・ルマ側は、一時的に軍を引き上げることで、一応の収まりをみせた・・・
―――か、のように思えたのですが・・・それは機会を伺っていただけの事。
そう・・・攻めるのに支障をきたす存在がいなくなれば―――の、話・・・。
その砦が陥落(お)ちた、と、言う事の顛末は、そういうことだったのです。
でも―――・・・この一件は、それだけに収まりそうもなく・・・
後日の会議でも、そのことは取りざたされたのです。〕
イ:―――――・・・。
セ:それでは―――これより、定例の朝議と、前(さき)の防衛線についての報告をなしたいと思います。
ただし、議長である尚書令に於かれては、ここのところの心労により非常にお疲れであるため、
不肖、中書監の私・・・セシルが、臨時に尚書僕射に就くことで議事の進行を行いたいと思います。
―――では、ご質問を・・・。
官:では―――・・・。
この度の攻防戦と同じくして、クー・ナもカ・ルマの洗礼を受けたようだが・・・
この後のことについては、どうするつもりなのだ?
セ:―――そのことについては、すでに私のところに報告にあがっているものです。
が・・・それは大司農と、宜しく相談しあわないと、なんとも申し述べられません。
他には―――・・・
官:では―――・・・。
この度の攻防戦では、わが国は大いなる損失を招いた・・・。
領土の一部を掠め取られ、おまけにこの国の功臣の血族までも失ってしまうとは・・・。
イ:――――(ビクッ!)。
リ:(来たか・・・・)
セ:それは―――私たちのほうでも、とても残念に思っていることであります。
官:それはどうですかな―――・・・
貴公らは、日頃『自分たちの国の男連中は不甲斐無い・・・』と、広言憚(はばか)らないというじゃないか。
それを・・・それを重責に感じた、ガフガリオン家の子息は、国と家の名誉のために死なれた・・・
なんたることだ―――、我々は大いなる損失を招いてしまったのだ!!
イ:――――・・・。
リ:――――・・・。
セ:――――・・・。
官:それに・・・剰(あまつさ)え、貴公らはあの戦場にいながらにして、あの英雄を見殺しにしたというではないかっ―――!!
お主らの事を、昔からなんというか知っておるか!
メンドリ啼いたら国滅ぶ
とは、まさにこのことをいうのだ!!
〔その場には三将は来ていました。
けれどもやはり―――イセリアは項垂(うなだ)れており、どうみても職務に支障をきたしている様子。
だからなのか―――元々職務の違うセシルがその代理となり、議事の進行を行うようですが・・・
そこは非難糾合の嵐、防衛線は失敗に終わり、おまけにこの国でも大切な名家の世継ぎを奪われたことに、
諸官たちは、口々に三将たちを糾弾し始めたのです。
日頃・・・彼らは、自分たちや他の男連中を事あるごとに悪く言う、彼女達の事をあまりよくは思っていませんでした。
けれど―――何をやっても上手くいかず、揚げ足を掬われてばかりのこの国の男性達・・・
女性たちの皮肉に反論しようにも、それに対抗するだけの勇気・度胸・実力もなかったのも、また事実だったのです。
だから―――ここぞとばかりに、失脚し始めた彼女達を糾弾し始めたのも、それなりの背景が用意されていたのです。
ですが―――しかし・・・〕
リ:(く・・・言いたい事を―――)(ガタ――☆)
イ:・・・待って―――リリア・・・
リ:(イセリア―――??)
セ:(イセリア・・・)
イ:この度は―――まことに遺憾ながら、われらの実力を発揮させる事なく終わり・・・
この国の領土、将の一人を失いました事は、真に残悔の極みにございます。
そして―――ここに・・・深く陳謝を述べるべきもので・・・(ス・・・)御座います―――。(ペコリ)
〔この余りに不当と思われる発言に、早、憤りの兆しをみせ、席から腰を上げようとしたリリア―――
その彼女を制した者こそ、今回の戦で一番に痛手を被っているであろうはずの、イセリアだったのです。
しかも・・・このときの彼女の口からは、以前の覇気はどこへやら・・・
まるで弱弱しい返答がそこにはあり、そこに居並ぶ諸官たちに向かい、深々と頭を下げたのです。
そのことで一応の溜飲を下げた諸官達は、それ以上の糾合を行うことはなく、やがて散会したのです。〕