<第四十三章;欺き欺かれ―――・・・>
≪一節;大胆不敵なる行軍≫
〔その人は―――最愛の人を、自らの眼前で無惨にも弑され・・・しかも、守備していた砦までも奪われ、
その上、国の官僚たちからも、これ見よがしに叩かれ―――打ちひしがれていました。
その人の名は・・・ハイネス・ブルグ “雪”の宿将・イセリア=ワィトスノゥ=ドグラノフ
実は―――今回の戦に関していえば、イセリアに留まらず、同じくして“月”と“花”の宿将であるリリアとセシルの二人も、
全くといっていいほど落ち度はありませんでした。
―――で、あるにしても、この三名が糾弾されたのは、彼女等が退却したその後に、件の砦≪クレメンス≫が陥落(お)ちてしまった・・・
まさにその一点のみに、糾弾が集中していたことに他ならなかったのです。
では、それはナゼなのか―――それは・・・
彼女達三人は、自分たちの国の男連中は、頼り甲斐がないということを、広言して憚らなかった・・・
そのことを、今においてツケを払わされようとしていたのです。
けれども―――これよりほんの少し前に、クー・ナから落ち延びてきた二将の眼は違っていました。
そう・・・物事の本質を、見事、的確に捉えていたのです。
だから彼らは、自らに課していた戒めを解き、これからハイネス・ブルグ軍に肩入れをすることとなったのです。
そのうちにも―――新たに領地を侵されようとしている・・・との報が―――〕
リ:なんですって―――??! お・・・おのれぇ〜〜―――図に乗ってぇ!!
セ:どうしたというの―――リリア・・・
リ:ああ―――セシル・・・ねぇ、聞いて?
前回クレメンスを奪った連中が、今度はダイスローグに進出するって話しよ―――
セ:―――なんですって?!! そちらの方角に??
リ:ええ―――すぐ近くのドレスデンには目もくれず、敢えてその方面に向かったということは〜〜・・・
セ:なんてこと―――やつら、よりによってハイレリヒカイトを、すでに視野に捉えようとしているなんて!!
〔それこそは大胆―――大胆に過ぎるにしても、実にあつかましすぎるまでの戦術でした。
本来ならば“戦”というものは、拠点という≪点≫と、その拠点同士の延長線上にある兵站の≪線≫を、
いかに上手く繋ぎ合わせるか・・・それが重要―――
その方法を編み出すのが『戦術理論』であり、また『戦略』でもあったのです。
けれども―――今回、カ・ルマ軍がなそうとしている事は、そういうのを全く無視した手法であり、
一見すると無謀のようなものにも感じられるのですが・・・
ハイネス・ブルグの王都、ハイレリヒカイト―――その美しき景観である美都を、大きく曲輪のように存在している『衛星都市』・・・
その中の一つが、今回カ・ルマ側のヨキ・ヨミ兄妹の標的ともなった、ダイスローグなのです。〕