≪二節;一の魔将の采配≫
〔それはそうとして―――コキュートスから、クレメンスへに向けての輜重隊が出るようですが、
その指揮を執るのが、何と―――・・・〕
輜:へへっ―――今回は、ビューネイ様御ン自らが輜重隊の指揮をお執りになるとは・・・・
これならは、おいそれとは掠め取られやしねぇゼ。
〔そう―――・・・カ・ルマの擁する、魔将の筆頭であるビューネイ自らが、この輜重隊の指揮を執る・・・
そのことに、大いなる安心を抱く輜重隊の面々なのですが・・・・
このとき―――フ国はジン州との境に程近い、山間の細道・・・
思えば、そこだけが唯一の難所―――・・・
そう、何万という兵を養うに足る、補給物資を積んだ輜重隊・・・
それが一列の細長い隊列となるとき、果たして―――??!〕
カ:それっ―――今です!!
~わぁあ――――っ!~
輜:うわわっ―――!!? て・・・敵か?
輜:へへっ―――だが、こちらには、あのビューネイ様がいるんだい。
輜:おお―――それもそうだな。
〔かねてから示し合わせているように、崖の中腹より、火のついたワラの塊や岩石を落とす者―――
それが、敵でなくてなんであろうか??
けれども―――輜重隊には、強い味方・・・七魔将筆頭のビューネイが、最後尾に待ち構えている・・・
そう、思っていた矢先に――――〕
長:なに―――? 中央が分断されて、後方と連絡が取れないだと??
輜:はい―――しかも、この谷あい・・・大きな岩一つで塞がってしまうものでして・・・
長:ええい―――何たることだ・・・だが、ここはオレ達の運ぶ分だけでも・・・
――するとその時――
ソ:それはなりません―――!
あなたたちの運ぶモノ、総て置いていってもらいましょう!!
長:な―――なにぃ!? な・・・なんだ、お前は―――!!
ソ:私は・・・フ国はチ州の公、ソン=リク=アブラハム。
此度は上からの命により、その物資を貰い受ける!!
火矢を―――射掛けよ!!
〔最前部と最後尾のちょうど中間点―――そこに大きな岩石を落とされ、
最後尾に控えているビューネイとの連絡が取れないまでか、期せずして新たなる軍―――・・・
それこそはチ州のソンが率いるチ州軍なのでした。
しかも―――頭上より火矢を射掛けられ、剰(あまつさ)え輜重隊の兵長まで失い、前方の部隊は惨めなまでに壊走していき、
事実上クレメンスに届けられたのは、ほんの僅かな物資だったそうなのです。
では、その一方のビューネイは・・・と、いうと――――〕
ビ:なんだ―――どうかしたのか。
兵:あ・・・はあ―――
どうやら前方の隊との中間点に、大岩を落とされたようでして・・・
ビ:なんだと―――? どうにかならんのか・・・
兵:どうにか~~――――は、なるようですけど、時間が少々かかるようでして・・・
ビ:どのくらいかかるのだ―――
兵:は、はあ~~―――工作隊の到着など見積もって四・五日は・・・・
ビ:(ふむう―――・・・)・・・此度の火計による兵糧の損出は・・・
兵:それが―――・・・七・・・いえ、六割がたが火に当てられたようでして~~・・・
ビ:なるほど――――では、このまま持ち帰っても、荷物になるだけだな。
ならばその場に捨て置くがよい。
兵:・・・えっ??!“捨て置く”―――って・・・
ビ:(フフ・・・)言葉通りだよ。
このまま持ち帰ったとしても、腐ってしまって食料となりえないものを、ナゼにわざわざそうしなければ?
兵:ああ・・・まあ―――確かに・・・
ビ:では、引き上げるぞ―――
〔彼の、今回の行動の概ねは、そういうことでした。
中間を寸断された事で、先頭の隊との連絡も儘ならず―――
しかも、運んでいた兵糧の半数以上を、敵の火計によって焼かれてしまった―――
ともなれば、もはや何の未練もなく―――と、して上で、“お荷物”となるであろう物資をその場に捨て置き、
さっさとコキュートスへと引き上げてしまったのです。
ですが―――ビューネイの犯した、たった一つのミステイク・・・
それは、焼かれた兵糧は表面上が焦げ付いただけであり・・・
しかも―――当時の食文化としては、上層階級ではない、民達のそれは、穀物を焼いて食べる風習も根付いていた―――
――――と、いうことは・・・?〕
カ:(フ―――・・・タケル殿の云われの通り、火をもって攻めたならは、これほどの収穫があったとは・・・・
これで、この年も越せる事となるでしょう・・・。)
〔列強の一つであり―――ガルバディアの貯蔵庫として知られていたクー・ナが、カ・ルマに占領された・・・
このことは、これからはそちらの方面からの穀物の輸出は望めないことであり、
それが、カの云っていた『この年も越せる』という事につながってくるのです。〕