≪五節;落泪≫
〔なにはともあれ―――依頼主の重要な任を帯び、この国に侵入をし、その任務を果さんとしていた不届き者は逮捕された・・・
そして、これからさぞかし厳しい尋問が、この二人の手によって行われるもの―――そのはずでした・・・。
でも・・・その不届きなる者こそは――――・・・
この国の公主様にも匹敵するような、その長躯を屈め―――麻の布からは“鳩の血色”をした眸を覗かせながら・・・
その女は、公主様の私室に連行されていったのでした――――
すると、ここで―――・・・
この部屋の出入り口に、まるでガーゴイルのように侍(さぶら)い立つ二人・・・〕
茜:(茜;公主様のお抱えの近衛兵の一人)
(あっ・・・)公主様に紫苑様、一体今までどこに行かれておられたのですか―――
葵:(葵;先述の茜同様、公主様お抱えの近衛兵)
(ぅん・・・?)紫苑様―――その者は・・・
公:ああ―――この者はな、スパイの嫌疑がかかっておるので、
これより妾の部屋にて、じっくりとそのことを問い質そうというのよ。
ゆえに・・・判っておるな―――
茜:・・・・ははっ―――(この女も・・・)
葵:・・・・畏(かしこ)まりました―――(・・・哀れな)
〔この国、ヴェルノア公国の公主様のお抱えの二人の近衛兵―――茜と葵・・・。
この者達が、自分たちの主とその寵臣が、早朝の・・・しかも自分たちも知らない間に、城内から消えていることに焦りを感じており、
代わる代わる、その痕跡を突き止めようとしていたようではありますが、不意に戻ってきてくれたことに、なにやら安堵を着いたようです。
でも―――傍らにて一緒にいる不審人物にも目を光らせてみたところ、主からの説明で得心の行く二人・・・
そして同時に、こうも思ったのです・・・
―――これからこの女には、さぞかし厳しい取調べが起こるのであろう―――
―――依頼主より授かった任と、それを忠実に実行しようとした自分を、悔やむがいい―――
そう・・・彼女にこれから降りかかるであろう災いに、同情していたのです。
しかし―――・・・このとき、紫苑の肩が・・・まるで何かを堪えるかのように、小刻みに震えていたのと、
密やかに頬を伝わった一滴までは・・・気がつかなかったのです。〕