≪六節;思い遣るのココロ―――≫
〔そして、これよりこの不審人物の取調べを行おうとするために、公主様の部屋に三名が入った―――
――――と、その途端〕
――がばっ!――
紫:も―――申し訳ございませんでした!!
あなた様と知りおきながら・・・ご無礼を働いた段―――もはや極刑に値いたします・・・!!(ポロポロ)
不:(しゅる〜・・・)――――・・・・。(しゅるる〜・・・)
婀:・・・一体―――ナニを申しておるのかな・・・紫苑。
紫:わ―――私は・・・あなた様であると知りおきながら・・・あなた様を―――(ポロポロ)
婀:・・・・ああ、妾を打ち据えた―――と、いうことか・・・。
済まぬのぅ・・・さぞかし要らぬ気遣いやら、気をもんだ事であろう―――
あの一発は、そんなそなたに対し、不徳なことをした妾自身への戒め・・・と、そう捉えておる。
ゆえに、そなたが額(ぬか)ずくことなど、ありはせぬのじゃぞ―――
紫:婀陀那様・・・有り難いお言葉を―――・・・
〔いきなり―――その場にうっ伏し、あの時・・・あの場で・・・
衛兵の前で打ち据えた事を、しきりに詫びる紫苑。
それも―――・・・大粒の泪を溢(こぼ)しながら・・・
しかし―――それはもはやいうまでもなく、その不審なる女性・・・しかも打ち据えられた当の本人が、
紫苑の主である 公主・婀陀那 だったのだから・・・。
でも、婀陀那は紫苑を責めたりはしませんでした。
いや、寧ろ逆に、今まで所在不明であった自分に対し、あの詰め所での一発こそは、妥当であるとまでしたのです。
そのことを、婀陀那に言ってもらったことで、さらに感激・号泣をしてしまう紫苑―――・・・
――――と、そこへ・・・
今まで、この主従の感動の再会を、傍らで見ていた もう一人の公主様 の姿をした者は・・・〕
公:―――それにしても、驚きましたね・・・。
あの一瞬でどうなる事かと思いましたが・・・。
どうやら、婀陀那様は役者のほうでも立身できるようですね。
紫:る―――ルリ!! あなたって人は・・・
婀:・・・よい、紫苑―――。
―――ところで・・・本当に妾は、そちらのほうでもやっていけるものかの、『元・役者』どの。
ル:ええ―――・・・特に、もう一発紫苑様が打ち据えようとしたときになされた、あの怯えた表情・・・
アレは、熟練の役者でも、すぐにやるようにといわれても、出来ることが難しいものです。
それも・・・特にあのような状況の下では―――ね。
婀:ははは――――そうかそうか。
いや、妾としてもな、あの場を凌ぐのにいくつかの手立てを考えておったのじゃが―――・・・
不意にそなたらの来訪があり、ここは状況の流れるまま、この身を委ねてみよう―――と、思うてな。
すると、思うておった以上に上手くいきおったのでな、あの痛さなどすぐに飛んでいきおったわ。
紫:あ―――婀陀那様ったら・・・
〔もう一人の公主様の姿をした者・・・こそ、ルリ―――
すると彼女は、あの詰め所で、紫苑が急に婀陀那を打ち据えた事に、“この後の展開がどうなる事か・・・”
と、気をもんだようなのですが、それは杞憂に過ぎた事―――
あの時、とっさに取った婀陀那の表情―――に、それに呼応するかのような紫苑の受け答えに・・・
自分以上の芝居の資質があるようだ―――と、囃したところ、
紫苑は冗談を言っているかのような、ルリの物言いに一言咎めはしたのですが・・・
そこを―――婀陀那は、元・本職である者からの褒礼の言葉が、余程嬉しかったらしく、
逆に紫苑のほうが咎められたのでした。〕