<第四十六章;猛禽の爪>

 

≪一節;公主が下したモノ≫

 

 

〔その日の午後――――朝議にあがった議題に修正を加うる箇所がある・・・との、公主様のお言葉に、

一体どの部分を修正したものか・・・と、怪訝そうな顔をした諸官たちが議事室に居並び、

その修正された項目を静かに聴く最中(さなか)―――・・・

 

この国の舵取り役である者が、独断で修正したモノに、驚きを禁じえないヴェルノアの官僚たち・・・

なぜならば――――・・・〕

 

 

涅:(な・・・!)婀陀那様―――! それは余りに無謀に過ぎる事です!!

雄:そうですとも―――それに、何もこのような時期に・・・

 

婀:・・・・このような時期じゃからこそ、妾はやる価値がある―――

  そう思うておるのじゃが・・・?

 

玖:ですが・・・今一度お考え直し下さい!!

  あの国を直接攻めるではないにしても、その近隣の・・・小国をヴェルノアの版図の一部に加えるなどということは!!

 

緒:そうですとも――――

  それに、婀陀那様も常々云っておられたではないですか・・・

  あの大国――――フ国を刺激するような真似は、してはならぬ――――

  これからは、温和な対話路線を軸にする・・・と――――

  あれは虚言だったのでございますか??!

 

婀:くどい―――!!

  妾は、紫苑よりの報告で、現在のあの大国の中身が、どうなっておるか承知の上なのじゃ!!

  “中華の大国である”――――と、いう屋台骨がしっかりとしておる以外、

  そのほとんどを、パールホワイツアントによって喰い荒らされて、中身が 鬆(す) のようになった大木のような・・・な!!

 

涅:し――――知っておいででしたか・・・そのお噂を・・・

 

公:(フ・・・)妾が・・・・知らずにおいた――――とでも思うておったか・・・。

  やれやれ――――どうやら妾も『辻堂の神』のようにするつもりでおったらしい・・・な。(ギロリ)

 

緒:(背後ろ―――?? い・・・いないとおもっていたら――――)

雄:(わ・・・我々が公主様の一挙手一投足に、目を奪われていた隙に・・・?

  わ、判らない――――この私をしても・・・!!)

 

 

〔それこそは―――両国を揺るがすようなモノでした。

 

彼ら官僚の聞き違いなどでなければ、現時点をもって、ヴェルノア公国・公主・婀陀那は、中華の国であるフ国を見限り、

徐々に、これからはヴェルノアが『軍事大国』である事を、内外に知らしめるために、行動を起こそう・・・・・

そして、その手始めとして、両国間に散らばるようにして介在する小国家を、ヴェルノアの版図に塗り替えるべく、

軍事行動を起こす―――と、広言したからなのです。

 

しかし―――そのことは、今までヴェルノアを治めていた彼女が取っていた方針とは、真逆の考え方・・・・

それであるがゆえに、官という官から猛反発を喰らうのですが・・・

 

婀陀那自身、この二年間ある場所に潜伏していたとき、フ国の余りよろしくない評判を聞き、知っていたがために、

多少なりとものウソはあったけれど、それを交えての理由を露わにし、反対意見を抑えようとした―――

 

―――と、その時、官僚たちが真正面にて婀陀那を見据え、そのことで背後から何者かが入室してきたことなど知らないときに、

まさに婀陀那と同じ声で・・・しかも冷たさを帯びたこの発言に、“公主崇拝者”である者も、

これでいよいよどちらが本物か、判らなくなってきてしまっていたのです。〕

 

 

婀:この浅慮者どもが―――!!

  これでよう判ったじゃろう・・・・ゆえに、もう反論などはさせぬぞ!!

 

涅:は・・・・ははぁ〜〜―――っ!!

雄:お・・・仰せのままに――――

 

 

緒:(ガク・・・)(なぜ・・・――――では、今までしてきたことはムダだったの??!)

公:・・・のう、緒麗美耶よ、案ずる事などないぞ。

 

緒:(公主様・・・)でも、なぜ―――そのようなことが・・・

公:“禍い転じて”――――じゃよ。(フ・・・)

 

緒:え・・・?!(禍いを転じて・・・??)

  あの――――公主様?!!

 

公:さて―――これより忙しくなる・・・(フフフ・・・)

 

 

〔公主・婀陀那は、その威厳ある声で、反論を唱えていた諸官を、須らく抑えた―――・・・

けれども、ただ一人―――大鴻臚であるオリビヤは、得心が行かなかったのです。

 

それというのも、前王であり、以前のヴェルノアの統治者であった、婀陀那の父の取ろうとしていた“強硬外交策”・・・

それと酷似していたものだったから・・・。

 

しかも―――ここ近年、悪しき噂が立ち上る、あのカ・ルマと同じものであることに、危惧を覚えもしていたのです。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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