≪十節;失道の経緯≫

 

 

〔いや―――今はそんなことよりも・・・〕

 

 

リ:兄上―――妾は・・・いえ、“私”は、情けない思いで一杯です。

  この国の譜代であるグラシャス家から、よもや簒奪を目論む者が出てこようなど!!

 

  兄上―――・・・あなたは・・・父祖伝来の家名を穢してしまったのですよ?

  ああ・・・私は―――私は―――・・・ご先祖様にあわせる顔がない!!

 

  ううッ―――うぅぅ〜〜・・・(ポロポロ)

 

ボ:リジュ―――・・・仕方がないだろう・・・。

  例え譜代だといっても、家名で禄を食めるものではない・・・。

 

  この―――グラシャスの家名で食べていけたのは、曽祖父の代まで・・・あとは落ち目になるだけだ、

  それに、代替わりをするたびに負債がかさんで、この上はこの国の―――・・・

 

ア:だから・・・この国の頂点に立とうと思ったのか・・・。

 

  だが、それが浅慮だったと、どうして気付かない―――

  それに・・・家名が凋落してしまったのだというのならば、どうしてお家復興のための努力をしようとはしない―――

  あなたは、努力をせずしてことをなそうと思っている、それは少し世間を甘く見すぎているのではないのか。

 

ボ:努力―――したさ・・・。

  いろんな手を尽くしてきた・・・だが!それはすればするほどむなしいものさ!

  無償でことをなそうと思ってやっていれば、『マジメな奴はバカだから扱いやすい』と哂われた―――・・・

  だから・・・もう、あれきり―――正道を進むのはやめたのさ!!

 

ア:そうか―――・・・だが! それは今回の事をなするための、理由の一つにもなりはしない!!

  それに、他人というものは、正道を行っているものが妬(ねた)ましいんだ・・・

  それを判っていて無償でやっていたのではないのか?!

 

  それを―――・・・一度や二度揶揄されたくらいで道を踏み外すなんて・・・

  それは、あなたの覚悟も努力も足りないからだ―――

 

  あの・・・古えの皇でさえ、蔭では『土塗(まみ)れの君』だとか、『肥香君』などの蔑称で呼ばれていたけど、

  その者は、そんなことを何一つ気にかけるでもなく、自分がよいと思ったことをやってきたのだぞ!!

 

 

〔なんと―――そこには、驚くべきボウの失道の経緯が明らかとなっていたのでした。

 

かつての―――ボウやリジュを輩出したグラシャス家は、フ国でも譜代にその名を連ねるほどの名家なのでした・・・

しかし、時とともにその凋落振りは目を覆うところとなり、ボウやその父の代には、譜代とその他の家との格差など、ないに等しかったのです。

 

だからこそ―――ボウは正道ではなく、多少なりとも汚い手を使って・・・と、いうことなのですが、

寧ろその“多少”が、“多少”ではなくなってきたとき―――人の心は堕落をなす・・・ただ、その一言に尽きたのでした。

 

 

こうして―――佞臣の叛乱を未然に抑え、首謀者を戒めたアヱカは・・・〕

 

 

ア:・・・・あの方も―――お家の負債を抱えているというのならば、

どうして衣服や調度品などの品質を抑える事が出来なかったのでしょう・・・

 

  “絹”や“金・銀”を・・・“木綿”や“木材”に変えるだけで出費は抑えられる・・・

  それが<努力>だと思いますのに―――・・・

 

リ:・・・アヱカ殿―――お恥ずかしい限りです・・・。

  わが兄のなしてしまったこと―――もう、グラシャス家はおしまいです・・・。

 

ア:いいえ・・・お嘆きになる事はございませんよ、王后様。

  わたくしも、今回の事は、王子様へも国王様へも、奏上しないつもりでおりますから・・・。

 

リ:アヱカ殿・・・それでは―――

 

ア:はい―――そうですね。

  そこで執金吾様には、数ヶ月間の自宅謹慎をしてもらうつもりです。

  そこで・・・今回の事の反省をしてもらえれば―――それでよいと思っているのです。

 

 

〔意外にも―――逆臣への処分は『自宅謹慎』のみでした。

 

でも、それは、捕らえた折に、その者の心情を知りえてしまった、アヱカの“情け”であったともいえたでしょう。

 

けれども―――・・・その甲斐性虚しく、自宅謹慎を命ぜられて数日後・・・

ボウは、己れの恥を思い、隠しておいた毒を食んで、自害をしてしまったのです・・・。

 

こうして―――フ国をその黎明期から支えてきた、譜代・グラシャス家は、1167代目で絶えてしまったのです・・・。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

あと