≪九節;謀略の失敗―――“生きていた太傅”≫
〔それから―――少し間をおき・・・後方より、悠々とした足取りで闊歩してくる不遜なる男・・・ボウ。
しかし―――彼は気付く事などなかったのです。
自分を迎え入れるべく整列をしている私兵―――その総てが、たった一羽の『禽』によってなされていたことなど・・・〕
ボ:(クフフフ―――・・・よしよし、首尾は万全なようだな。)
失礼致しますぞ―――王子・・・いえ、未来の中華の王よ。
――――・・・。
ボ:(ん―――?)・・・王子? どうなされた―――??
誰:・・・お控えなさい! 傲岸不遜なる者よ!!
ボ:ううっ―――お・・・お前は!!?
ア:いかが―――しましたか・・・執金吾。
私の顔を見忘れた―――と、でも?
それとも・・・もうこの世にいないはずの私が・・・ここにいるのがそんなにも不可解なのですか。
ボ:ううっ―――・・・ぐぐぐ・・・おっ、おい!お前ら―――どうしてこの女が生きて・・・
〜ぼわっ〜 〜ぼわっ〜 〜ぼわっ〜
ボ:な――――なんだと?? わ・・わが兵が・・・燃え??!
〔自分が、これから臨まんとする道を唯一阻む者―――太傅・ガク州公・・・
その彼女のあるべき姿を見、ボウはすでに自分の私兵によって、手にかけられているはずのこの人物が、どうして未だに生きているか・・・を、
自分を迎え入れるべく整列している者達に問いかけたとき―――・・・
傀儡ではないはずの自分の兵が、まるで・・・紙が燃やされるかのように皆いなくなった――――
それを見たとき、何か悪い夢でも見ているのかと錯覚に陥ったのですが・・・
実は、これはこれから起ころうとすることの、ほんの前触れに過ぎなかったのです。
それというのも―――そこにはもう一人・・・幼き王子の母であり―――自分の妹である・・・〕
リ:兄上―――!! あなたは・・・なんということを・・・!!
ボ:(なっ――)リ・・・リジュ!! ど―――どうしてお前がここに!!?
リ:それはこちらの言葉です!
あなたは・・・自分の甥に当たる我が子を・・・一体どうするつもりでいたのですか!!
ボ:そ・・・そんなことは決まっているだろう!!
あの―――病弱な太子の変わりに、王位に就いてもらう・・・
タ:・・・そしてそのあとで、自分のいいように政治を壟断せしむ―――か・・・
フッ・・・“獅子身中の蟲”の常套手段だな。
ボ:な―――何ヤツだ!!
タ:これは申し遅れた―――ワシはアヱカ様の従者である、タケル=典厩=シノーラと、申す。
ボ:な―――なに?? シノーラ だと??
た―――確か・・・その家名は、ラー・ジャの・・・
タ:いかにも―――ワシの産はラー・ジャのクメルだが、アヱカ様のこの国にかける熱意に折れ、
この方の従者となった・・・ただ、それだけのことだ。
〔ボウの手の内は―――そこにいた太傅・ガク州公の従者の口から暴露されてしまいました。
しかし、その者の名を聞くに及び、不可解にも思ったのです。
なぜならば―――“シノーラ”という姓は、ラー・ジャの最高官僚<大老>のものと一緒だった・・・
そんな、同じ姓を持つ者が、どうして一地方官の州公の下に・・・??〕