<第四十八章;慧眼――先を見通す眼――>
≪一節;拡まる動揺≫
〔佞臣一派の筆頭―――自宅謹慎中に、服毒を図れり・・・
この一報は、すぐに国の内外にまで拡まってしまったのです。
しかし―――国内の憂事が収まっても、今回のことの引き金ともなった国外のそれ・・・
そう・・・ヴェルノアの軍事行動に関しては、然るべきの対応策を講じていた最中なのです。〕
イ:(ふぅ〜む・・・頭の痛いことだわい。
第一に、国内が混乱しておる最中に、あのヴェルノアの真意を質さねばならんとは・・・)
セ:―――いかがされましたか、司徒様。
イ:ああ・・・録尚書事か―――いや、国の乱れは収まったはいいが・・・
肝心のあそこの真意を質さねば―――・・・と、そうおもってな・・・。
セ:そのことなのですが・・・大殿様は、御前会議の最中にお倒れになられるし・・・
我等の有象無象が集(たか)って、知恵を搾り出したところで、出るのは所詮愚にも付かないものばかり・・・
ここ一つ、目の冴えるような検索を出す者がいてくれれば―――・・・
〔この国の三公の一人“司徒”であるイクも、ここ最近の出来事になにやらの思案顔・・・
そこを録尚書事であるセキに見咎められたようなのですが、
実はセキの方でも、国王が倒れた御前会議のあとに、諸官を収拾するも―――集まりが悪い上に、良策も出せない・・・
と、云う不作続きに、どうやら頭を痛めていたのでした。
そして―――このときセキが不意に漏らした『目の冴えるような検索を出せる者』――――
実は・・・それには心当たりがない―――ワケではなかったのですが・・・
するとそこへ―――今のこの二人の会話を聞いていたかのように、入室してきた者が・・・〕
リ:―――なにを迷うことがある。
今こそ、あの方に訊いてみればよいではないか・・・。
セ:(あっ―――)王后・リジュ様・・・
イ:(はぁ〜ヤレヤレ・・・)立ち聞きしておったのか―――・・・
―――で?“あの方”とは誰の事を指すのかな??
リ:私は―――これから先・・・この国の行く末を見届けねばならない・・・。
それをそなたらに聞きに参ったのだが―――そなたらのほうでも頭を悩ませておったとは・・・。
それに、“あの方”が誰であるのか、そなたのほうでもよく心得てあるのだろう―――イクよ。
イ:(ふぅむ・・・)だがなぁ―――あの者・・・アヱカ殿の従者が、すんなりと策を出してくれるモノか・・・
リ:(ぅん?)イクよ―――そなた・・・“あの方”がアヱカ殿と云うのではないのか??
イ:ああ―――アヱカ殿は、国内の対策に関しては滅法強いが、こと国外に関してはからっきしなのだ。
そこへ行くと、タケル殿は国の内にも外にも強い―――・・・
(うぅむ・・・)なあ―――セキよ・・・
セ:―――そうですな、とりあえずここはアヱカ様を通して、彼の意見を聞いてみては・・・
〔それは―――まさに“尋常”(よのつね)の出来事ではありませんでした・・・。
なぜならば―――大国の中央官吏が、そろいも揃って地方官である州公の、
そのまた部下である者に、国の内外の対策を聞く・・・と、いうことが―――
ですが、つまりそれは――――言い換えてしまうのなら、
すでにフ国の中枢は機能しなくなってきていることを暗に物語ってもいたのです。
しかし―――今の国王が生きているうちは、見棄てる・・・というわけにもいかず、
それでも“細く・永く”を念頭に〜〜―――が、どうやらの実情だったのです。〕