≪三節;すでに見通していた者からの献策≫
〔それはともかく―――現在はそのことよりも重要なことを抱えているので、
そちらを解決することの方が先決なのです。
そのために―――隣室に控えていたタケルを呼ぶアヱカが―――・・・〕
ア:これ―――タケル・・・
タ:―――は・・・お呼びで御座いましょうや。
ア:うん―――お前が、以前に私に語ってくれた、かの国についての構想・・・
この方たちにも聞かせてあげなさい。
タ:―――は、かしこまりました。
イ:(なぬ?)ちょ―――ちょっと待たれよ??
セ:もしかすると―――其許(そこもと)は・・・この国が、このような事態に陥ることを・・・
リ:前もって知っていた―――と、申すのか??
タ:(ニャ・・・)いかにも―――・・・
ワシには、各国に“眼”となり“耳”となる者達を散らばらせておりまする。
ですから、ヴェルノアが此度のような行動に移るであろう―――と、いうことも、事前に知りおくことが出来たのです。
〔その―――七尺もの体躯を持つ巨漢は、今回のヴェルノアの行動を、さも当然であるが如く知っていました。
しかもその表現も、――各国に自らの“眼”や“耳”となる者達を散らばらせている―― という言い方で・・・
そのことに、その場にいたイクにセキにリジュは、さながらに驚いたのです。
なぜ―――自分たちも知りえなかった他国の事情を、一家臣の・・・それも従者であるこの巨漢が詳しく知っていたのか・・・
でも―――そんな三様を前に、更なる事をこの巨漢は続けたのです。〕
タ:それでは―――これよりどのように我が国が動かなければならないか、ご説明いたしましよう。
時に・・・此度のヴェルノアの出師は、どの方面からのものであるのか、ご存知ありませんか。
リ:・・・どの方角から―――と、いわれても・・・
ヴェルノアであるから、“南東”ではないのか?
タ:そのお答えでは、半分正解。
それに―――我が主も、同様のお答えでした。
セ:(な、なんと―――)では・・・それが妥当では・・・
タ:(フ・・・)ヴェルノアと―――わが国とでは、その国境間でも数十里は離れております。
無論、その間には小規模ながらの『国家』というのも存在する・・・
まづ―――フ国を侵すというのなら、その小国家を従属しなければならない・・・
イ:(むん―――?)しかし・・・それでは――――
タ:・・・いかにも――――その遣り様は、かのカ・ルマを模しているかのよう・・・
しかも、一日で30もの砦を陥としたというのは、まさに“軍事国家”の面目躍如―――と、いったところでしようかな。
ア:・・・これ―――タケル。
タ:これは失礼―――
そこで・・・我等の取るべき方針は三つ。
ただ―――このまま手をこまねいて、ヴェルノアの軍門に下るか・・・
リ:(ゴク―――・・・)
タ:それとも―――全軍をして事に当たり、両国とも疲弊するか・・・
セ:(ゴ・ク―――・・・)
タ:それとも――――・・・・
イ:“それとも”・・・なんなのだ??!
タ:・・・こちらの南方の州、『チ』『レイ』『シン』の協力を仰ぎ、防衛戦線を固めること・・・
また―――それと併用して、使者を立てることをお勧めいたします。
リ:し・・・使者を?? し―――しかし・・・
セ:それに――― 一体どのような口上で・・・
イ:その前に人選は―――??
〔タケルは、まるで今回の出来事が、事前に知り置いたことの如く、次々とその対応策を述べていったのでした。
『何もせず軍門に下る』
『あくまで抵抗をし、両国家とも疲弊をする』
しかし・・・その中でも、特に良いのではないか―――と、されるもの・・・それが・・・
『有事に対処すべく防衛線を固め、然るべくして使者を立てる』
―――と、いうものだったのです。〕