≪二節;“疾風”の騎士≫
〔その一方で―――フ国の三州、“チ”“レイ”“シン”の州公連合軍は・・・〕
テ:ふぅむ―――まさに疾風迅雷の用兵ぶりだ・・・この僅かな日数で、もうフ国を眼中に捉えるとは・・・
キ:さて―――どう出てくるものやら。
ソ:しかし―――録尚書事さまからのお達しがあったとは云え、
比較的平穏だとされていたこちら方面が、俄かに騒がしくなってくるとは・・・。
テ:(フフ・・・)参ったことだよなぁ〜〜―――噂によると、“相当”手強いようだぜ。
キ:“手強い”もなにも、数日かかったとはいえ、すくない日数でここまで侵攻してきたのは疑いようがなかろう。
ソ:―――とはいえ、我等の正念場はまさにこれからです。
軍事大国が擁する軍とは云えども、これよりのフ国への侵入はまかりなりません―――!!
〔俄かに色めきたってきた国境付近―――・・・或る者は、公主の采配ぶりに感嘆の色を表わし、
また或る者は、例えそうだとてフ国への侵入は許すまじ―――と、していた・・・
もしここで自分たちが敗退をしてしまうようであれば、州兵は『張子の虎』ぶりを発揮せざるを得ないため、
なんとしてでも撃退しなければならなかったのです。
ゆえに―――そのための陣営を敷くのですが・・・・
その様子を、彼の砦ヤー・ヌスより伺っていた者は・・・〕
婀:(フッ―――フフ・・・)実に可愛ゆきことであることよ―――この妾に兵学の指南か・・・・
どうじゃ―――紫苑・・・あの陣、敗れるか。
紫:――――ご要望とあらば、蹴散らして御覧に入れまする。
婀:よろしい・・・では、少々手洗い挨拶ではあるが、ヴェルノア流の軍学兵法と、
その兵の強壮ぶりを見せ付けて参れ―――!!
紫:御意―――!!
〔兵学の初歩の知識として、『高キ処ヨリ低キ処ヲ見ル』―――と、いうのがあるのですが、
今回の互いの布陣はまさにそれに当てはまるものであり・・・
少しばかり小高い丘の砦より、低い平地に陣を敷くのを見たる―――・・・・
つまりそこには、まるで陣容が敵方に筒抜けであったわけであり、
今回では、とりわけ陣を敷くのに手間取った“レイ州”の軍、目がけ――――・・・
それこそは、まさに『一陣の旋風』―――・・・
まるで、鷹匠の手より放たれた猛禽の如く、獲物にまっしぐらに襲い掛かった――――・・・
すると、たちまちレイ州軍の一角は崩れ始め、緒戦を手荒い歓迎をしてもてなされてしまったのです。
こうして―――相手に戦らしい戦をさせず、意気揚々とヤー・ヌスに引き上げてきた紫苑は・・・〕
紫:―――ただいま帰還いたしました。
公:うむ―――ご苦労であった。
そなたの用兵ぶり、まさに目を見張るものである。
紫:は―――、ありがたきお言葉で。
公:≪・・・私ですよ、紫苑さん。≫
紫:≪えっ―――と、いうことは・・・ルリ??!
はぁ〜〜―――相変わらず見分けのつき難(にく)いったら・・・
ところで―――婀陀那サマは?≫
公:≪あの方は、今はしばしのご休息の様子です。≫
紫:≪“しばし”―――の?≫
公:≪はい―――、どうやらあの方も、これまでの戦は『小手調べ』に過ぎぬもの・・・
―――と、そう感じているようです。≫
紫:≪そう・・・と、いうことはいよいよ―――≫
公:≪はい、次にある一戦より、いよいよフ国本軍が到来する―――との旨を、私より申し上げました。≫
紫:≪(私より・・・)つまり―――“白雉”という人から受け取った情報をそのまま・・・≫
公:――――・・・。(クス)
〔三州公軍が陣の設置をするより以前に、『一陣の旋風』となって戦場を駆け抜けたヴェルノア軍―――・・・
しかしそれこそは、ヴェルノア軍内部にても公主・婀陀那に次ぐ“戦玄人”―――
その用兵ぶりは『旋風(かぜ)の紫苑』と字(あざな)されるほど、迅速且つ巧妙だったのです。
ところが、砦に戻ってみれば、出迎えたのは婀陀那本人ではなく、影武者のルリ・・・
そこで紫苑は―――公主・婀陀那の“影”であるルリより、『次の一戦からフ国軍と相対峙することになる』旨の事を聞かされ、
そのために婀陀那が今までの疲労を快復するべく、眠りについている―――と、そう理解したのです。〕