≪三節;到来したる援軍≫
〔その一方、こちらフ国の三州公軍側では、布陣が整う前にヴェルノアの『旋風の軍団』に翻弄され、
本来敷くはずの地点より、五里ばかり後方に布陣していたのです。〕
テ:やれやれ―――こりゃあ手強いもあったもんじゃないな。
ソ:感嘆をしている場合ではありませんよ・・・シン州公。
キ:これで―――我等の面目は丸つぶれか・・・情けない。
〔チ・レイ・シンの三州公連合軍一万五千を、たった二千の軍で掻き回されたうえ、敗走―――・・・
と、あっては、州軍の体(てい)たらくぶりを露呈してしまったわけであり、
そのことには目も当てられない状況だったのです。
しかし―――『棄てる神あれば拾う神在りき』の例え通り、
その日の夜半過ぎに、フ国より到着した一軍があったのです。
でも、驚くべきことに、その軍を率いて到来したのは――――〕
ア:夜分遅くに失礼を致します―――・・・
テ:(ナニ?!)あぁっ―――!!
ソ:あなたは・・・ガク州公―――いえ、太傅様では!!
キ:それに・・・其許(そこもと)は?!
タ:お初にお目にかかり申す―――
ワシはこの度のみ、中郎将・軍師に任ぜられた、アヱカ様の従者―――名を、 タケル=典厩=シノーラ と、申す。
ソ:タケル=典厩―――・・・するとあなたが、ギ州公に多大なる影響を与えたという・・・
タ:ギ州公―――・・・ああ、コウ=ジョ=タルタロス殿の事ならば、一度お目にかかったことが御座いますが・・・
なるほど―――ギ州といえば、わが故国ラー・ジャにも程近い処。
しかも、その方が睨みを利かせているのであらば、ラー・ジャとて気軽に攻むるを好しとはしない―――
そういったところで御座いますかな。
〔その一軍とは、紛れもなくフ国軍本隊。
でも・・・その軍の中には、本来ならば血生臭い戦場には出向かないはずの、アヱカの姿があったのです。
そのことに驚きもしたのですが、また驚くべきことには、
この国では見かけない顔―――棗色の肌をした巨漢が、アヱカのそばに侍立していたのです。
その巨漢の名を聞くに及び、チ州公のソンが、自身でも一目おいているギ州公の事を聞いたとき、
タケルは最適の人事をして西方をよく抑えているとしたのです。
ところで、やはり気になるところといえば―――〕
ソ:それより―――なぜ太傅様であるあなた様が、わざわざ軍の便を借りて戦場へ・・・?
キ:そうだとも―――しかも、そなたはこんな血生臭いところとは無縁な・・・
テ:もしかすると・・・オレ達の体たらくを監査するために?
ア:―――そのどちらとも違います。
この軍は、この度私のほうから無理を言って貸し出してもらったもの・・・
つまり、この軍の総責任者は、私なのです―――
ソ:な―――なんと・・・
(そ、それほど―――この度のヴェルノアとの対峙に重きをみている・・・と―――)
テ:(単なる侵攻戦にしちゃあ大掛かり過ぎるとは思っていたが―――
なるほど・・・そうすると今回のヴェルノア軍の総大将は公主自身か―――)
キ:―――――・・・。
〔それこそは――― どうしてわざわざ 太傅であるアヱカが、軍の一便を借りて戦場に赴いているか・・・と、いうこと。
しかしそこには、何も“ほんの気まぐれ”や、“監査”などといった意味合いのものではなく、
アヱカ本人の意志にてフ国の一軍を貸し出してもらい、そのそう責任者となって参陣しているということだったのです。
そのことを知りえた三州公は、今回の―――アヱカの並ならぬ決意に、固唾をのむばかりだったのです。〕