≪六節;“逆落とし”決行―――≫
〔そして―――夜も白々と明けようとする未明・・・
フ国軍側では、いつ前方の砦より敵軍が攻め込んできてもいいように、万全の布陣を敷き―――
また・・・件の坂の上でも、婀陀那の率いる特攻隊が――――
その“刻”を待っていたのです。〕
婀:(頃合は・・・・よし――――)
(クワ!)今じゃ―――! 一気に駆け抜けるぞ!! 妾に・・・続けえぇ〜〜―――!!
わぁぁああ!
〔その坂は―――勾配が急で、当然の事ながら悪路そのものなのでした。
それであるがゆえに、普通の馬なら躊躇して下れない―――
そのことを、中郎将・軍師から聞いたときに、『ならば安心』―――と、多寡を括っていたのです。
するとその時―――まさにありえないとされた方向から、ありえない鬨の声―――・・・
軍馬のいななきとともに、フ国軍の陣の中央を突破しようとする一団が・・・
そのことに呆ッ気に取られたフ国軍側の兵士は、ナニをするでもなく茫然とした表情で、
その一団が通り過ぎ行くのを眺めるばかりだったのです。
では、その一方のヴェルノア軍側ではどうだったのでしょうか―――
文字通り・・・突撃する間際までは、軍馬も兵士も皆いすくんで、
公主の・・・婀陀那のこの作戦が成功するものかどうかさえ疑わしかったのですが、
それは日頃の練兵の賜物か、先陣を切った婀陀那が、一度号令をかけてその坂を下る雄姿を見るや、
今まで吹いていた臆病風などどこへやら・・・皆『我、先に―――』と、下っていく騎兵の姿が・・・
そう―――ここに、『ヒョードルの逆落とし』は、決行されたのです。〕