<第五章;清廉の騎士>
≪一節;謀(はかりごと)と、云う名の、お芝居≫
〔さて、その一方で、女頭領と、姫君は・・・と、申しますと。
かたや、囚われの虜囚―――かたや、その者を、拉致・監禁している者・・・ではなく、不思議と、仲良く語らい合っていた、というのです。〕
婀:フフフ・・・なるほど、然様でしたか、そのような事が・・・・
ア:ええ、そうなんですの・・・・
〔一見すると、そこには上流階級の「それ」が、展開されていたようですが、
ここは盗賊達の屯(たむろ)する処、そう甘くはなかったようです。
なぜなら・・・?〕
盗:失礼いたしヤス―――
婀:いかがした。
盗:へいっ!お頭! 準備が整いやしてごぜぇやす!
婀:・・・然様か、分かった。
下がってよいぞ。
盗:へいっ!
ア:あぁ・・・驚いた。
婀:フフ、済みませぬな、姫君。
ここに集う者共は、あのように礼儀作法など知らぬ無頼の輩なれど、皆、侠義に篤い者ばかりじゃ・・・ここ一番で、頼りになる者ばかりよ。
ア:うふふ、あなた様が、そうおっしゃられるのでしたなら、間違いございませんですわね。
婀:フ・・・・かたじけのうございます。
さて・・・こうはしてはおれぬ、のぅ・・・姫君・・・ちと、ご足労ではございますが、妾の野望に手を貸して戴きますぞ?!
ア:えっ?それ・・・って、どういう事―――・・・
婀:何か・・・勘違いされておられるようじゃが・・・・
姫君、あなた様は、今、―――囚われの身・・・なのですよ。
ア:え・・・と、囚われ―――・・・
婀:然様・・・実は、さある処から、あなた様を捜索するよう、依頼がございましてなぁ・・・
ア:さある処―――も・・・・もしかして・・・
婀:察しがよいようじゃのぅ・・・然様―――「カルマ」から・・・じゃよ。
ア:な、なんっ・・・・です・・・・っ・・・・て・・・??
婀:・・・・・・・・。
ア:あ・・・あなた・・・わ、わたくしを・・・騙したのね?
婀:「騙した」? これは人聞きの悪い事を。
あなた様が、今までどのような解釈のなされ方をしていたかは存ぜぬが・・・・
こう・・・装っていた方が、ムダに騒がられずにすんだ・・・と、こういうワケですよ。
〔また急に、部屋の扉が乱暴に開けられたかと思うと、恐らくこの「ギルド」の構成員と見られる男が、女首領の前で何かの報告をしたのです。
それは―――何かの準備が整ったとの報告・・・
「何かの準備」―――・・・?
すると矢庭(やにわ)に、女頭領から、彼女自身の野望のために協力をして欲しいと頼まれたのです。
けれどその内容とは・・・姫君のコトを、血眼になって探している―――カルマに差し出すということ・・・
そのことを知り、今まで自分に良くしてくれていたのは、そのための準備が完了するまでの時間稼ぎに過ぎなかった・・・
それはつまり、自分を騙していたことにも繋がり・・・
そこで姫君は、初めて―――〕
婀:・・・・・・。
ア:この・・・恥知らず!! わたくしに、近付きやすいように、羊の皮を被ってくるなんて・・・!
―――ああっ!?
婀:二度も打たせるなど・・・・妾は、斯様なお人好し、ではございませぬゆえ・・・・。
―――これっ!たれかある!!
盗:へいっ。
婀:この女を、獄檻車につないでおけいっ! 妾も、着替え次第、すぐに追いつく―――出立せよ!
〔今までの事を、簡単に整理すると・・・
この女頭領は、姫君を懐柔すべく、近付いた・・・・と、そう、思えるのです。
ですが・・・しかし・・・
まさに、深慮遠謀とは斯くの如きを申すのでしょう。
それというのも、女頭領―――独り残された自室において・・・・〕
婀:フフ・・・流石に、効きましたよ・・・・姫君。
いえ、今世においての「現人神(あらひとがみ)」よ。
しかし・・・今は何卒のご辛抱を、すぐにでも救いの手は差し伸べられるでありましょうからな・・・・。