≪二節;檻の中の小禽≫
〔そして、数分後、身に練り絹のマントに白銀の鎧を着込み、白馬にまたがった一人の女騎士が・・・・
そう、これこそが、かの女頭領の真の姿だったのです。
そしてどうやら、姫君をつないだ獄檻車の隊列に追いついた模様です。〕
婀:どうじゃ、大人しくしておるか。
盗:えぇ〜〜え、御覧の通りでさぁ。
婀:そうか。
いかがかな?姫君、少しは観念されたか?
ア:―――・・・。
婀:ふふ・・・どうやら、姫君におかれては、ご立腹の様子じゃ。
ア――――――ッハッハッハハ!!
ア:ス・・・ステラ・・さんっ!
〔今ここで、泣こうが喚(わめ)こうが無駄なこと・・・
ただ一つ姫君に許されたのは、かの盗賊を信じて待つことのみ・・・
しかし―――この厳戒態勢をどうやって・・・
そして・・・出遅れてしまった、かの盗賊は・・・と、いうと・・・〕
ス:もう、出ちまった後かい、ヤ――レヤレ、こいつは、のんびりしちゃあおれん・・・・(ぅん?)
これは―――・・・
〔盗賊が拐(かどわ)かされた姫君の行方を追い、ギルドに来てみれば・・・
そこは、殆どの構成員が出払って「蛻(もぬけ)の殻」に近かったのです。
しかし―――ギルドの女頭領の机の上を見てみると・・・なんと、書置きらしきものを見つけたようです。
それを手に取って見てみると―――・・・〕
ス:ふぅむ・・・どれ・・・
―――・・・成る程、ヤツ等「ハンザ平原」で野営をしている・・・ってか。
成る程・・・あそこなら、ヤツ等の領土からここまでそう遠くないし・・・忍び込むには、今夜―――夜半辺りなら・・・問題はなさそうだな。
〔どうやら予(かね)ての計画通り、虜囚と成り果てた姫君の奪還が今、始まろうとしているようです。
そして・・・それは、こちらでも、
カルマの騎士団が、野営をしているハンザ平原にて―――女頭領を筆頭とする、ギルドの者達が騎士団の団長に面会を求めているようです。〕
団:ほう―――貴殿か、して・・・何用かな?
婀:いや、何用とは言い難いが・・・先日なされておった件よ、アレをあのまま物別れに終わらせたのであっては、こちらとしてもいささか寝覚めが悪いでな。
そこで・・・今一度、仕切り直しを―――と、こういうワケよ。
団:フフン・・・だが、しかし―――その方らの後ろ盾をしない・・・というのは、本国でも決定済みでもあるのだ。
ワシ一人の依存で、どうにでもなる・・・と、云うものではない。
婀:そのくらいの事は判っておる。
じゃがなぁ・・・・現に・・・こうして・・・今、そちらが欲しいモノを、こちらが抑えておるのじゃがなぁ・・・。
団:ナニ?!それは、本当か??!
婀:・・・まあ、ウソと思えるなら、篤と御覧なられるがよろしかろう。
〔そこで、まづ女頭領が切り出したのは、先立って物別れに終わってしまった話し合いの続き―――
なんとしても、あの「夜ノ街」にあるギルドを、独立採算制にしたいがため、食い下がろうとしていたのですが・・・
いかんせん、騎士団団長は、その条件を呑まないよう・・・呉々も―――と、上層から言い付かっていたのです。
そこで女頭領は―――そんなときの為に用意された「切り札」を使うことにしたのです。
それが・・・現在カルマが血眼になって探している―――件(くだん)の「生き残り」・・・
すると団長は、途端に目を輝かせ出したのです。
どうして―――何の抵抗をする能力(チカラ)もない、たった一人の女性に・・・こんなにも猛々しい騎士が畏れをなすのか・・・
そんなことは、その時まで関係がなかった女頭領には、判ろうハズもありませんでした・・・
それはそれとして―――姫君がつながれている獄檻車の前に通された団長は・・・〕
団:ほ―――・・・おおお!まさにそうよ! まさにこの者が、かのテラの生き残り・・・!!
フフフ・・・・ククク・・・・これで、命運も尽きたるものよ・・・なぁ・・・・。
ア:ひ、控えよ! 罪も莫き人々を、数も数え切れないくらい殺(あや)めてきた大罪人が・・・!!
団:ふふ・・・今の立場が、どうであれ、なんとも気の強い事よ。
ワシは、そのような女子(おなご)・・・嫌いではなぁい。
ア:け、汚らわしい!!
―――あなたもそうよ、このわたくしを、油断させるために、わざと・・・・!!
婀:・・・・・・・。
ア:・・・・・。
そなた達には、今に天罰が下る事でしょう・・・
わたくしは、それを見れぬのが、口惜しゅうございますが・・・。
婀:いかがですかな? 本物である事には相違ないとは思うが・・・。
団:うん?!うむ・・・・確かに、そのようだな・・・。
婀:では、あちらの天幕にて、取り引きの話の再開じゃ・・・
ア:(終わった・・・・今度こそ、確実に・・・。
ご免なさい、お父様、お母様・・・・ガムラ・・・マサラ・・・皆!!
わたくしは、あなた方の願いどころか、仇の一人も討てないまま・・・このまま、生涯を果てる事になってしまうでしょう・・・
どうか・・・お赦し下さい・・・!!)
〔自分の首実検をする為、女頭領と騎士団団長が現れた・・・
そして、手配中のテラの生き残りだと確認し終えると、気丈にも姫君は口応えをしたのです。
でも・・・今更―――「籠の中の小禽」は、何を囀(さえず)ろうとも虚しいまででした。
だからこそ姫君は、今度こそ観念されたのか、ただ・・・項垂(うなだ)れたまま、落涙するのみ―――だったようです。
ですが―――・・・〕
ア:(でも・・・先程、わたくしを見つめていた、あの方の眼差しは、何だというの?
まるで・・・「まだ、希望を棄ててはいけない」―――・・・と、云う風に感じたのだけれど・・・)
―――ま・・・・まさか??
〔そう・・・姫君は、先程女頭領を睨みつけたその時・・・自分を悪党達に売りつけて、「してやったり」―――と、云ったような目つきではなく、
何か・・・こう・・・とてつもない謀(はかりごと)を、内に秘めた者の眼―――のような感じがしてならなかったのです。〕