≪四節;徴(しるし)≫
〔そして――――夜・・・
天空には、煌々(こうこう)たる満月が出ているのではありますが、どうも今宵は機嫌が悪いらしく・・・今は、厚い雲に覆われているようです。
それ故か、月明かりは望めず、陣中には篝火(かがりび)が炊かれている模様です。
(それでも、互いの顔と顔を確認しあうぐらいの輝度しかなかったようです。)
そして・・・この闇に紛れて、動く影が・・・それは、なんと、あの―――――〕
ス:フフン・・・どうやら、上手い具合にお月さん、雲に隠れてくれたようだねぇ。(これも、女禍様のお導きかね?)
〔・・・・どうやら、かの盗賊―――ステラ・・・のようです。〕
ス:(見張りは・・・・二人―――か・・・) 警備の者が、ちょいと少ないのは気にはなるが・・・ま、よござんしょ。
見:―――ん? 何だ・・・今の音は・・・
見:は・・・はぁああ―――!!
ス:フ・・・悪いねぇ、ちょっくら寝といておくんなさいよ―――・・・
―――よし、あった、これだな・・・・・!
〔この時、盗賊はわざと音をたて、二人の見張り役の注意を引き、獄檻車より離れさせる事に成功します。
そして―――この二人が、物音のした処に来てみれば・・・怪しい者、況(ま)してや猫の仔一匹と居らず・・・・
ですが、不意に―――自分達の背後に人の気配を感じたので、振り向いてみたところ・・・そこには、まるで天を衝くような大男が・・・・!!
そのあと、この二名は、悲鳴を上げる事なく沈黙してしまったのです。
それからその大男、獄檻車の鍵を見つけると、すぐにそちらに赴いたようです。
先程まで、その身に纏っていたボロ布を纏い直して・・・
そして、姫君のつながれている獄檻車に来てみると、そこには・・・・
月のある方向に手を合わせ・・・・一心不乱に、何かを念じている姫君の姿が・・・・そこには、あったのです・・・・。
その、姿を見た盗賊は―――・・・〕
ス:(はあ・・・っ・・・あぁぁ・・・!) ね、姉ちゃん? ジ、ジィルガ・・・・姉ちゃん―――・・・
〔そう・・・・そこには、かつて己の身を犠牲にし、自分を扶けてくれた・・・先代の女禍の魂の持ち主であり、
地元では、聖女としても名の通っていた、自分の義姉―――「ジィルガ=式部=シノーラ」・・・
その・・・彼女の姿と―――今の姫君の姿とを、重ね合わせていたのです・・・。
そして、今まで満月を覆い隠していた雲が一気に晴れ上がり、姫君にその光が差し込んだのです・・・
するとそこには・・・額に浮かび上がった、とある紋様が・・・
そう―――それこそが、「女禍の魂」を受け継ぐ者の証・・・だったのです。〕
ス:(や・・・やはり、このお人が、今の・・・!!)
ア:・・・・そこに居られるお方―――どなたかは存じ上げませんが・・・わたくしの、剄(くびき)を断ちにこられた方なのでしょう。
わたくしの・・・わたくしの覚悟のほうは、すでに出来ております―――早く、なされて下さいまし・・・。
―――えっ?あ・・・あなたは―――ス、ステラさん??!
ス:へへっ、どうも。
すいませんねぇ、姫君のお命・・・断ちに来た人間でなくて。
ア:あ・・・ああっ―――! や、やはり・・・あなたは、わたくしを助けるために来て下さったのですね?
ス:その通りで・・・。
サッ―――こっから出ますぜ・・・
ア:はいっ!
〔その徴(しるし)を見るに至り、今まで推測だったものが確信に変わりました。
今は亡き義姉(あね)の額にも、同じ紋様が浮かんでいた・・・
しかも、使い古された伝承(いいつたえ)ではなく―――真(まこと)、霊験(れいげん)あらたかなモノ・・・聖なる波動―――・・・
そのことを知っていただけに、盗賊は己に課せられたある使命を思い出すのです。
それよりも―――今はこの場から無事脱け出すことが最大の使命・・・
そう、今まさに―――脱出劇が繰り広げられようとしているのです。〕