≪四節;一路ヴェルノアへ・・・≫

 

 

〔一路―――フ国からヴェルノアに通ずるクロムスビー街道を、一台の馬車が揺られていくのが見えます。

その馬車に乗車しているのは、この度大鴻臚に抜擢をされた・・・ガク州公であり、幼王子の太傅である、

アヱカ=ラー=ガラドリエル

 

―――と、そのアヱカの従者で、かつては彼女をして五度もその草庵に足を向かわせてまでそうさせるに到った、

しかも元は、隣国の政務の頂点に居座り、不世出の才とまで謳われた・・・

タケル=典厩=シノーラ

 

そう・・・今はフ国の官である彼らは、たった二人で、これから“軍事大国”との異名を持つ ヴェルノア公国 へ、

あることの問い質しを行うために向かっていたのです。

 

 

そのあること―――とは・・・つい先頃、この軍事大国によって率先して行われた・・・と、いう『軍事行動』について―――なのですが、

それにしても、僅か若冠にして 州公・太傅・大鴻臚 を兼任しているという、アヱカの潜在能力も、

さながらに驚かされてくるものなのです。〕

 

 

ア:・・・・それにしても―――ナゼ公主様とあろうお方が、

  このような時機になって、思い切った行動に踏み切ったので御座いましょうか・・・。

 

  それと・・・今になっても不思議に思われるのですが、

タケルさんには、この国が軍事行動を起こすことを、予測しておられたのです・・・よね。

 

それはどうして―――・・・

 

タ:アヱカ様も・・・もうすでに、ワシが目とし、耳としている情報機関の事を存じ上げているでしよう・・・

ア:ええ、確か―――『禽』という方々・・・

 

タ:そのうちの一羽が―――これから赴くヴェルノアの国にすでに潜伏しており、定期的に連絡を取り合っている・・・

  ―――と、したなら?

ア:ええっ?これから行く処に―――ですか? 怖くはないのでしょうか・・・・

  たったお一人で、異国の地にて身を潜められて・・・

 

  それに・・・その情報に関しても、実に細々(こまごま)とした内容で―――

 

タ:(フフッ――)それはそうでしよう、そのものが身を潜めているのは、他ならぬ マジェスティック城 なのですから。

ア:マ―――マジェスティック城??! そんな・・・王都であるアルルハイムになのです??

  そ・・・そんなところで、こんなに危険なことの従事を―――もしバレたのならどうするおつもりなのでしょう・・・。

 

タ:その辺りの事ならば、彼女達も一流です。

  分を弁えて行動をしている・・・。

 

  それよりも、ワシにしてみれば、主であるあなた様のほうがご立派に御座います。

ア:―――わたくしが? それはナゼなのです?

 

タ:誰一人として身寄りのいないこの国で、何者かの力も借りずに、確固たる信頼を得られている・・・と、いうことにですよ。

  ですから、今、あなた様がその地位にいるのも、何の不思議も御座いません。

  起こりうるべくして起こりえた当然の事象で御座います。

 

ア:―――ごまかすのは・・・およしになってください。

  私は、一人では何も為しえられない存在です。

 

  ただ―――・・・今のわたくしがあるのは、他の方からの多大なる支援のおかげ・・・

  ―――と、そう思ってさえいるのですから・・・。

 

 

〔しかし―――次のタケルよりの返しの言葉はありませんでした。

 

でも、それは、アヱカが自らの事を謙遜(へりくだ)り過ぎているから・・・の、他でもないらしく、

今の時代の風潮には、全くそぐわない者を主君に仰いだ・・・それが彼流の返答であるに過ぎなかっただけなのです。

 

 

こうして―――昼夜二日余りをかけて、時勢と話題の国・・・『ヴェルノア公国』へ入国した二人は、

まづこの度の戦勝に沸き立っている国勢を鑑み、ただ―――ただ・・・感嘆するのみだったようです。〕

 

 

ア:はぁ―――・・・凄かったですわね。

  沿道にまで人が満ち溢れて―――・・・

 

タ:それはそうでしょう―――“公主様の軍の征く処、そのは他の元に皆伏し〜―――♪”とは、上手いことを詠ったものです。

 

ア:――――・・・。(はぁ・・・)

タ:いかが―――なされましたか、アヱカ様。

 

ア:・・・・いえ、ただ―――・・・

  ただ、かの公主様に於かれては、国を亡くする者の胸中など、判りかねるもの・・・かと。

  たとえ、小さな国なりとて、そこで暮らす民などがいるのですよ。

  それを・・・戦火に遭わせるばかりではなく、従属させようなどと・・・!!

 

タ:アヱカ様――――

 

ア:・・・ごめんなさい。

  わたくしも、元は『テ・ラ』という小さな国の王族だったものですから・・・感情的になりすぎました。

 

  それに、今現在はどうであれ、わたくしはフ国という国の代表でもあります。

  大義のために、私情は棄てなければ・・・

 

 

〔毅然―――ただ一言で括るならば、アヱカは毅然であった・・・と、いうべきでしよう。

 

なぜならば、彼女も元はテ・ラと云う小国家の王族なのであり、

そこを敵対していた隣国のカ・ルマの蹂躙に遭い、攻め取られてしまった・・・・

それゆえに、今回のヴェルノアが起こしたことにも、『弱者は強者に――――』と、いう道理は分かってはいても、

同意まではしていなかったのです。

 

しかし―――今、ここにこうしてきているのは、彼女自身がフ国の代表としてきているわけで、

過去に起きたそういう事実を、私情として切り離してしまおうとする、アヱカのその態度は、

今回のこの外交への意気込み―――と、そう捉えられたことでしょう。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>>