<第五十一章;ヴェルノア公国による歓待の調べ>
≪一節;ト長調・ささやかに―――≫
〔意外なことに、国の内外から畏敬の念を払われ、また親しまれてもいたヴェルノア公国の公主様―――とは、
アヱカも以前にお世話になったことのある、『夜ノ街』と呼ばれた処にあった機関、“ギルド”の女頭領でもあった、
婀陀那=ナタラージャ=ヴェルノア
―――その人だったのです。
そのことに驚きもし、また懐かしさからか・・・暫らくは声の出なかったアヱカ―――
でも、それだけでも婀陀那は十分だったのです。
双方が、こういう象(かたち)を望んでいなかったにしろ、自分たちは再び顔を見合わせる―――と、云ったことに・・・
そして、謁見の儀も滞りなく終わらせ、現在ではヴェルノアの町が一望できるテラスに・・・
この度の大任を労(ねぎら)うため、婀陀那自らがアヱカを誘(いざな)い・・・
ささやかなるお茶会が催されていたのです。〕
ア:―――――・・・。
婀:・・・・この度は大変ご苦労なことでしたな、姫君――――
ア:・・・・・どうして――――
婀:・・・・うん?
ア:―――どうして、なのです・・・
婀:・・・なにが―――でしようか・・・
ア:どうしてあなた様は、あの時――――
婀:(あの時・・・)ああ―――“あそこ”にいた・・・と、云うことですかな。
―――まあ、あのときは妾もその総てを棄てて出てきておった・・・それがどういった因果か、あの街に居つくことになりましてな。
それに、生来そういった性分からか、あの組織の頭領に納まるとは・・・
(フフ――)まあ、それが“縁”ともなって、姫君のようなお方にお会い出来たのは、『転じて福と成す』と、見るべきでしようか・・・。
ア:いいえ―――わたくしが申しているのはそこではありません。
どうして―――・・・
〔ようやく―――ようやく落ち着いてきたアヱカの口から出てきた言葉は、『どうして』というものだけでした。
でも、その語尾については、“何の目的か―――”に、ついての言及はされておらず、
婀陀那のほうでも、そのことを『“どうして”あの時『夜ノ街』にいたのか』・・・と、そう捉えざるをえなかったのです。
ですが・・・今回アヱカたちがこの国に来た目的も、そのことを聴くために―――ではなく、
事の発端ともなりえた“あの事”について―――なのです・・・が、
アヱカが、大鴻臚という役職についてからは、言葉すら交わせていない・・・
そう、“古えの皇”である あの方 が―――ここで始めて“合流”したのです。〕