≪五節;変ニ長調・華やかに―――≫

 

 

〔それはそうと、アヱカがヴェルノア入りしたのは、この国が突如起こした軍事行動の言及のために―――で、あり、

その彼女に随行して、ある一人の男もこの国に来ていたのですが・・・

 

今―――自分の主と離され、アルルハイムの城の別棟に通されて待機している、その男は・・・〕

 

 

タ:ふぅむ―――どうやら思惑通りに、事が進んでいるようだな・・・

  それにしても=カケス=は遅いな―――・・・

 

 

〔その別棟の出窓より、『迎賓館』と呼ばれる建物の灯りが点き―――盛大な催し物が成されているのを確認するタケル・・・

 

その時彼は、自分でも思っていた以上の成果があり、

自分の主と『公主様』である あの人 が“刎頚の交わり”を成していると感じていたのです。

 

 

―――が、しかし・・・その一方で、自分がここにきているのを知っているはずの『禽』の一羽=カケス=が、

未だに接触すらとってこないことに、一抹の不安を過ぎらせるのでした。

 

 

一方そのころ・・・迎賓館においては―――〕

 

 

公:さあ―――いかがなものです、今宵は吉日でありますが故に、

  ヴェルノアで採れた“旬”のモノを取り揃えておるのですぞ。

 

ア:は―――あ・・・

 

公:―――こちらは、リテアニアで採れたユキノシメジ・・・こちらはグーテンベルグ特産のカニノアシ・・・

  それにこちらは―――・・・いかがされましたか、一向に箸が進んでおられぬようですが・・・

 

  さあ―――どんどん食して下され、この晩餐は姫君のために設(しつら)えさせてあるのですから・・・。

 

 

ア:・・・それもそうですね、折角婀陀那さんが私のために用意してくれたものなんですから・・・

  戴かないというのも、この食材たちに対して失礼に当たるというもの・・・

 

  では―――遠慮なく戴くことといたしましょう。

 

 

〔卓上に彩られた季節の“旬”の美味しい食材(モノ)、これに手をつけない道理もないのですが―――

アヱカは、絢爛豪奢なところで食し、また贅沢な食材や味わいそのものに、どこか気後れしている様子・・・

 

それというのも、今、彼女の目の前にて彩っている食材の数々は、民達が食べたくとも食べれないモノばかりだったから・・・

それを自分だけ―――・・・と、いうのは、やはり少なからず憚(はばか)られたようなのです。

 

 

では―――だとすると、そうであると知っていながらも、『食材たちに対して失礼』として戴いていたのは・・・?

それは、やはり あの方 だったのです。〕

 

 

ア:いや―――おいしい・・・。(モグモグ)

 

  ここまで実を結んでくれた食材たちもさることながら、婀陀那さんお抱えの宮廷料理人たちの妙技の冴え―――・・・

  こうして見ているだけでも<眼福>に値しますが、やはり食材は“食して”こそのもの・・・

  それに、そちらの方が食材たちに対しての供養にもなりますからね。

 

公:フフ―――・・・なんとも難しい事を云われる・・・。

  ですが、なんとも分かるような気がいたします。

 

ア:ウフフ―――・・・(パク)

 

 

  ≪あの―――女禍様・・・お言葉でございますが・・・≫

 

女:≪なんだい、アヱカ―――ひょっとすると君は、国に残してきた民達を哀れむあまり、

  これらのものを食さないつもりなのかい・・・≫

 

ア:≪だって―――そうでございましょう?

  わたくしの知っている民達の食べ物といえば、“五穀”や売り物にならなくなった野菜の切れ端―――・・・

  それを、今の私の目の前にあるのは、“お肉”や“卵”・・・それに名前さえ知らない食材ばかり・・・

 

  なのに―――≫

 

女:≪(フゥ・・・)いいかい―――アヱカ・・・

  君の云っていることも分からなくもないが、それは『大義の前の小事』というものだ。

 

  私たちはこれから民達を主観にした治世を広めなくてはならない、そのためには最低でも生を紡がなくてはならないんだよ。

  それには、例えどんなものでも食して明日への活力としなければ・・・ね。

 

  それに、今回のは、この人たちが私たちを精一杯もてなしてくれている事でもある・・・

  そのことは、忘れてはならないんだよ―――・・・≫

 

 

〔実を云うと―――女禍様も、この歓待にはアヱカと同様でもありました。

 

けれど、久しぶりに会った時の―――公主・婀陀那や、その従者・紫苑の嬉しそうな表情を見るのにあたり、

無下に接してしまうのもどうか―――とも、思ってもいたようです。

 

 

それに・・・その時に云っていたことも事実―――

自分たちのお腹を充たすという点では、料理となってくれている“旬”の食材たちや、

それらを加工し、“目”や“舌”で愉しませてくれる、料理人の業の冴えにも―――・・・

だからこそ、美味しく召し上がるというのは、そんなモノ達に対しての最大の賛辞でもある―――と、していたのです。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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