≪六節;変へ短調・秘やかに―――≫
〔ところで―――もう一組目のこちらは・・・と、いうと・・・〕
紫:(全く―――いい気なもんよね、ルリは・・・)
しかも大奮発しちゃって―――・・・(ぶつぶつ)
公:――――何か言いたげであるようじゃな、紫苑。
どこぞか不満に思うておるところでもあるのか―――?
紫:いいえ―――別に。(しれ)
<それはそうと〜〜―――婀陀那様ご本人はどこへ行かれたの?>(ひそ)
ル:<―――ああ、あの方でしたら、リラクゼスハーブのたっぷりと入った香湯に浸かられ、
今までの穢れを落とす―――などと云っておられましたが・・・>(ひそ)
紫:<『ハーブ湯』?? またそれは・・・結構な贅沢じゃないの?!!>(ひそ)
ル:<ええ、そうですよね―――あの方自身そんなに贅沢を好む方ではないのに・・・
この晩餐に出された食材と云い―――件の『ハーブ湯』と云い・・・>(ひそ)
紫:<・・・なにが云いたいのよ―――>(ひそ)
ル:<いえ―――これがあの方一世一代の大勝負に出ようとするとなると、
幾分かその意味合いも、多少なりとも違ってきますでしようから―――>(ひそ)
〔今の―――紫苑とルリの二人による囁き話にしても、
どうやらこの歓待はヴェルノアにあっても、年に一度あるかないか―――の、 それ のようであり、
しかも公主・婀陀那自身も、今現在この場に居合わせていないという事由も、
<リラクゼスハーブ>という・・・香りもよく、心身ともにリラックスできる効果を持ち合わせているという、
香薬草をふんだんに使ったお湯に浸かっているとしたのです。
そう―――アヱカに対しては、その見ているだけでも満腹になりそうな料理の数々を・・・
そして、もう一人の従者の方には、今まさに自らの一身を賭した大勝負に出ようとしていたのです。
それはさておき―――城の別棟に待機させられていた男は・・・と、言うと。
迎賓館に並べられていたものと、一部同じようなものが彼の目の前にあったようなのですが―――・・・
どうやらそれらには、彼は手をつける―――と、云った風ではなく、
代わりに、自分の懐に隠していたものを取り出し、それを頬張っていたのです。
しかもそれは―――もしこの外交で万が一の事態が起こった場合に・・・と、前もってアヱカが結んでくれた『おむすび』なのでした。
それを食し終わると、用意されていた寝台へと横たわるタケル・・・
外は―――まるで墨を垂れ込めさせたかのような闇の帳・・・
あれだけ灯されていた迎賓館の光も落ち―――とは、
もう夜も更けてかなりな時間も経ったことで、皆、就寝の床についたことを表わしているようなのですが――――・・・
今まさに、その別棟に・・・薄絹を身に纏った女性が―――向かっていたのです。〕
To be continued・・・・