<第五十二章;軍事提携>
≪一節;挙動不審なる“人影”≫
〔その日は―――あまりに懐かしい顔と、また再び会えたことに、喜びを禁じえませんでした。
それに、その夜には、自分を歓迎するといった意味合いでの盛大な“晩餐会”が催され、
しかも、そのあとには、総天然の大理石で設(しつら)えさせた『大浴場』で、たった一人きりの入浴・・・
もう―――これだけで一生分の贅沢は尽くした・・・と、思っていたアヱカだったのですが、
最後には、自分が眠りに就く寝室で・・・それこそはまさに天国にいるかのような居心地―――
身体を横臥させると、まるで雲の上にいるかのように錯覚を起こしそうな感触に、
果たして自分一人だけが、こんな贅沢を享受していいものか・・・と、さえ思うのですが、
旅の疲れ―――と、この国であった様々な出来事に驚き疲れたのか・・・
アヱカは、安らかなる寝息を立てて、眠りに落ちていったのです・・・。
その一方で―――城の別棟に待機させられており、
自分の手の内の者である、『禽』の一羽との接触が出来ないままでいたその漢は―――
この国が用意してくれた食事には手もつけず、代わりに持参してきた・・・
もし万が一のときのために・・・と、アヱカが結んでくれた『おむすび』を頬張っていたのでした。
それからというものは―――特に何をするでもなく・・・
用意された寝台に身体を横臥させるタケル―――・・・
すると―――タケルが身体を横臥させてから数刻が経った頃・・・
この別棟の部屋に、忍び足で近付いてくる人影が―――・・・〕
―― ・・・ヒタ ・・・・ヒタ ――
誰:―――――・・・・・。
〔その―――存在は・・・自身の、その豊満な躰を薄衣に包み、
おまけに―――その躰には、男の性慾を活性化させるような不思議な匂い・・・=フェロモン系の香水=を振りまき、
今―――タケルのいる部屋の前に来ていたのです。〕