≪四節;ヴェルノアの特産品≫
〔明けて―――翌日・・・朝食の席で、公主様がアヱカに申すのには・・・〕
公:時に―――姫君に於かれては、昨晩はよくお休みになられましたかな。
ア:あ・・・はい、とても気持ちがよかったです―――。
公:然様―――ですか・・・。
ところで――― 一つ小耳に挟んだのですが・・・
ア:はい、なんで御座いましょう―――
公:あなた様が―――中華の国の州の一つを治めて以来、
かのカ・ルマに、幾度もその境を脅かされておる―――とか。
ア:え・・・そのことをどうして―――?
公:フフ―――妾とて、玉座にてただふんぞり返っておるだけではありませぬ。
各列強よりも一歩先手を打っておくべく、新しい情報は逐一入ってきておりましてな。
ア:そう―――だったのですか・・・
それにしても、まるでタケルさんの―――・・・(はっ!)
公:うん? 今・・・何か云われましたかな。
ア:い、いえ―――なんでもないです・・・。
公:然様ですか―――・・・
では、ここで一つ妾から提案があるのですが・・・よろしいか?
ア:えっ―――は、はい。
公:では―――・・・
実はですな、妾の故国であるヴェルノアと、フとは元々はその血筋は同じであるとされておる。
―――と、そこへ、今回姫君が外交の大使となって派遣されてきた・・・
妾としても、この好機を逃がす手はない・・・と、見ておるのです。
そこで―――世間一般のように、供物を届けるだけでは能がありませんので、
この度にては、妾としても趣向を凝らしてみることとしたのです。
ア:趣向・・・ですか? 果たしてどのような―――
公:のう・・・姫君―――
ア:はい・・・
公:この国一番の特産品として挙げられまするのは、一体なんだとお思いです。
ア:ええっ?この・・・ヴェルノア国一番の特産品・・・ですか?
えぇと―――・・・なんでございましよう?
公:それはですな・・・・ズバリ、『軍隊』ですよ。
ア:ええっ―――ぐ・・・『軍』??
公:(ニャリ)いかにも―――この国が、他のどの=列強=よりもそれで“名”を上げておる『軍隊』・・・
それをフ国の―――いや、姫君のために借与して差し上げよう・・・と、いうのが、妾からの提案なのです。
〔それは―――その一言は、実に驚嘆に値しました。
この国―――ヴェルノアが建国されて以来、その通り名が各=列強=に鳴り響いているという・・・
そして、それを今度は“外交”の一手段として持ち上げてきた事に、アヱカは驚きを禁じえなかったのです。
しかも―――公主様は知っていました・・・中華の国の州の一つで、幾度となく侵攻騒ぎがあった事を・・・
それを見かねたからか、今回の“外交”を大いに利用する事とし、
かつては―――気まづい関係にあったフ国との国交の修復をするために、
世界各国にとどろいている『ヴェルノアの軍隊』を派遣しよう―――と、申し出たのです。
でも――――気になるのはその“規模”・・・なのですが・・・〕
ア:ですがしかし―――それではあらぬ誤解を招いてしまわれるのでは・・・
公:(フ・・)“あらぬ誤解”―――も、なにも、現にあなた様の治めておられる州では、
かの黒き国の脅威に、幾度となく晒されてきているではございまじゅうまいか―――
ア:いえ―――そうではなくて、私が申しているのはどの程度の『軍』を・・・と―――
公:(ぅん??)・・・それは、妾の擁しておる近衛の二万―――
ア:こ・・・『近衛』??!
し―――しかしそれでは、この国におけるあなた様の近辺が・・・
公:その心配には及びませぬ―――いなくなればまた募ればよきまでのこと。
まあ―――有り態に申しますとな、現在の近衛軍は年寄り連中ばかり目立ちますでな・・・
ゆえに、これを機に刷新を図ろうか―――と、していたところなのですよ。
ア:それでは―――・・・その『軍』を統括する“人材”は・・・??!
公:――――でしたらば・・・食事がお済次第、見て見られますかな―――・・・この国自慢の『特産品』を。
〔それは―――単なる“外交”においての軍隊の派遣・・・という、程度以上に高いものでした。
そう―――公主様お抱えの 近衛軍・二万騎 ・・・それだったのです。
しかも―――公主様の口からは、『古くくたびれてきたから、新品同様のものに取り替えるのも悪くはない』・・・と、云ったりもしたのですが・・・
朝食を終え、公主様と一緒に錬兵場へと足を向かわせたアヱカは―――
先程公主様自身が言い置かれた言葉の中に、大いなる誤りが潜んでいたのを知る事となったのです。〕