≪五節;近衛軍の統率者≫
〔なぜならば―――・・・
そこにいた精悍な顔つきの兵士達は、“古くくたびれた”というよりは―――寧ろ“百戦錬磨”の兵(つわもの)揃い・・・
しかも、驚いたことに―――・・・〕
ア:(あ・・・っ!)あの背後ろ姿―――タケルさん!!
タ:(ぅん?)おお―――これは主上・・・ご無事でなりよりです。
ア:いいえ・・・それより、タケルさんのほうはいかがだったのです?
タ:はい―――・・・従者であるワシに対しても、大した歓待振りでして・・・
それより―――御覧下さい、さすがは軍事国家の擁する 軍隊 ・・・と、云うべきところです。
ガク州の州兵などとは明らかに錬度が違う―――
ア:・・・一見しただけでも、分かるものなのか―――
タ:・・・・ええ―――
行軍するときでの、あの足並みといい―――“開い”たり、“寄せ”たり・・・
その一糸乱れぬ統率力といい、ワシからは何も申すべくはありません。
寧ろ、この軍を貸していただける事に感謝をしなくては・・・
ア:・・・でも、君はあのとき―――(はっ!)昨日の夜・・・
タ:・・・そこより先は―――何も云わないでいただきたい・・・
ア:(タケル――――・・・)
〔その錬兵場には、自分たちよりも先んじて来ていた者がいました。
この国のある宿に来て以来、その者から別(わか)たれ・・・・また、何をされているのか分からないでいたというのに・・・
でも、その者はいつも通りに、主であるアヱカと接していたのです。
しかし―――今朝方決まったばかりのハズで、自分と公主様意外、知る由もないこのことを、
タケルが知っていた事に大いなる疑念を抱くのですが―――・・・
何かあったとするならば“昨日の晩に”―――と、そう嘯いたアヱカに・・・
そこから先を考えるのを遮るようにしたタケル・・・
そう―――彼は何らかの手段で、ヴェルノアの公主である婀陀那から、
彼女お抱えの近衛軍を借り入れする事を知っていたらしいのです。
それからしばらくして―――・・・〕
公:(フフ・・・)いかが―――ですかな? 妾の国の軍隊は・・・
タ:今更・・・申すべくもありませぬ。
世界最強の軍隊を貸していただけるのであれば、古えの≪槍≫を迎えたことに匹敵するでしょう―――
公:おお―――かの名高き『帝国の双璧』の一つですなぁ・・・
いやはや、そんな存在と同列に准(なぞら)えられるとは・・・光栄なコトではありますな。
ア:(『帝国の・・・』≪槍≫―――あの子のことか・・・
そういえば、どうしているのだろう―――・・・)
〔その―――ヴェルノアの軍の錬度なりを見るにつけ、タケルは不意に、自分の庵の書斎にて、
以前に眼を通した事のある書の一つに、そのことが載っているのを思い出して、
これから貸してもらえる軍隊は、まさにそれに匹敵する―――との賛辞を贈ったものなのです。
そのことを公主様は、やはり―――と、いうか知っていました・・・
かつて―――“皇”の治世の時代に活躍をし・・・“皇”の国家<シャクラディア>の領土の維持に、
最も貢献のあった武将の一人として立身していた、『帝国の双璧』の≪槍≫と言う存在を・・・
それをアヱカは―――口にこそ出さなかったものの、その存在の事をかなり詳しく知っていたようです・・・。
それはそれとして―――・・・〕
公:それでは―――妾はこれから公務の方がありますので・・・
これにて暇(いとま)を申し上げます。
姫君・・・それでは―――
ア:あ・・・うん―――・・・
公:(ちら)――――・・・・。
――〜 サ・ヨ・ナ・ラ 〜――
ア:・・・・今、彼女―――君の方に向かって何か云っていたね・・・
タ:―――そう・・・でしようか・・・(お前だったのか・・・ルリ―――)
ア:―――それにしても・・・誰がこの軍を率い・・・おや?婀陀那さんが戻ってきたぞ?!
タ:・・・どうしたんでしょう―――
公:いや・・・スミマセヌ―――あわてておって、すっかりと重要なコトを話すのを忘れておりました・・・
実は―――この近衛軍を統括する者のことですが・・・副将はあなた様ご自身がよく知っておられる者でございますので、
御用がおありのときには、何なりとお申し付けくださりませ。
では―――・・・『衛将軍』これへ!!
〔ここに来て、ようやく別離の時間となり―――アヱカはフ国へ・・・そして婀陀那もまた自国にて公務に勤(いそ)しむ・・・
の、ですが―――その前に、重要なこと・・・この近衛軍を統率しむる“将”のことなのですが・・・・
そのことを思い出した公主様は、踵を返すなり、すぐさまに“副将”の方から呼び付けを行ったのです。〕