<第五十三章; 混 戦 >
≪一節;帰国途中≫
〔外交で訪れたヴェルノア公国―――そこで会うこととなった、この国の 公主様 ・・・
正直をいうと、アヱカはその『公主様』なる人物が、フ国でも鳴り響いている事にちょっぴり腰が引けていました。
そしてこうも思っていたのです・・・『もし、わたくしが公主様に対し、ご無礼を働くようなコトをやりはすまいか・・・』と、いうことを。
しかし、それは杞憂に過ぎた事でした。
なぜならば、ヴェルノアの公主様とは、アヱカも知っていたある人物―――・・・婀陀那=ナタラージャ=ヴェルノアその人の事だったのだから。
そのことでも十分に驚いたアヱカだったのですが・・・
マジェスティック城を離れる際に、今にも溢れそうになるモノを必死になってしまいこみ、
その別離れを惜しんだはずの顔が―――・・・
これから自分たちの窮状を扶けてくれるという この国の軍隊 の“将”となって再び見(まみ)えたとき・・・
そして―――その軍団の更新は再び始まり・・・
“将”である者も、騎乗している馬をアヱカ乗り合いの馬車に寄せ、その列に加わったのです。
それからしばらくして―――・・・〕
ア:・・・あの、婀陀那さん―――?
婀:・・・・衛将軍―――
紫:はっ―――
婀:お主はこのまま北上を続け、進路をマーヴェラスではなくガク州へと取るが良い。
紫:は・・・かしこまりました―――
して、兵の規模はいかほどに致しましょうか。
婀:うむ――― 4,900 は妾の下へ、残りの 15,000と100 はそのまま北上・・・
―――か、その途上で 100 はマーヴェラスの付近へ野営させておくが良い。
紫:なるほど・・・つまり私は虎の子の 15,000 を率いてガク州へ―――ということですか。
かしこまりました、ではお先に――――・・・
〔“将”なる者が果たして婀陀那本人であるのかが気になり、馬車の小窓より顔を覗かせて訊ねてみたアヱカは・・・
しかし件の人物からはその返事はなく―――すると、おもむろに、自分の率いる軍の方針を決める声が・・・
しかも、そのうち 4,900 という半端な数を自身の手元においておき、
残りの 15,000と100 を北上・・・またそのうちの 100 を<マーヴェラス>たるウェオブリ城付近に野営をさせておき、
15,000 に関しても、そのまま北上を続けガク州へと至らせる―――・・・
この彼女の真意はどこへ―――?
すると・・・この“将”の口からは次にこんな事が・・・〕
婀:いかが―――ですかな、この辺りで休息を取る・・・と、いうのは。
ア:で・・・でも―――まだフ国の関をくぐっては・・・
タ:(フ・・)そうですな―――朝も早いうちに出立いたしましたので、人も馬もさぞや疲れていることでしょう。
―――と、いうことで、その辺の見晴らしの良いところで・・・と、いうのはいかがでございましょうか。
ア:タ・・・タケルさん―――?!
婀:(フ・・)それはよき提案―――
皆のものに告ぐ―――各自木陰に入り、一時(いっとき)の休(きゅう)を取れ。
〔それは―――なんとものんびりとした話・・・
一番近いフ国・レイ州の関はいまだ遠くにあるのに、“小休止”―――とは・・・
しかも、タケルもそのことを促せたのには、耳を疑いもしたのです。
――――が、やはりそれは彼らの考え合っての行動なのでした。
今―――アヱカとタケルが休んでいる同じ木陰に、自身も入らんとするその“将”は・・・〕