≪四節;闇を跋扈する者≫
〔一方そのころ―――ガク州を援助するために、自らの州から出向いてきた二人の州公は・・・〕
カ:どうやら―――また退かれるようですな・・・・
コ:今、退くは理に非ず―――されど拙者たちは援軍に参加しているに過ぎない。
かの州司馬の方針がそうであるならば、聞かぬわけにも行きますまいて―――
カ:――――そうですな・・・。
(しかし―――妙だ・・・噂には聞いていた以上に慎重に・・・イヤ、これは慎重というには度が過ぎている。
まさか―――何かに臆しているのでは・・・?)
〔二人共―――ジン州公のカも、ギ州公のコウも、前(さき)の戦から援軍に駆けつけてくれた者達。
でも、この度のガク州軍の戦の在り様に、疑問があったのは否めなかったのです。
なぜならば―――過去の二度の防衛線において、よく策を用いて強壮で知られるカ・ルマ軍を退けていたのに、
それが今では、掌を返したかのように撤退一路の弱腰・・・
でも、自分たちはガク州を援けに来ている、故に独断では動かずに宜しくガク州軍と連携をとろう―――と、いうことなのです。
しかし・・・こうも弱腰なのでは―――・・・
そんな矢先にこんな事が・・・・〕
カ:――――ナニ? 草木がざわついている?
伝:はい、州の天文官が云われるには、例の“周期”が近付いてきていると・・・
カ:(例の・・・“周期”!)・・・そういえば、満月が近いのだったな。
わかった、野営の見張りを増設しておこう。
コ:いかがなされましたかな―――
カ:ああ―――ギ州公殿・・・いえ、実は―――・・・
コ:―――なんと?!! 魔獣の乗り手<ビーストライダー>が・・・?!!
カ:ええ―――自らの主に献上すべく、“血”と“魂”を狩るために、この辺りを跋扈している・・・と。
コ:むむぅ~~~―――タダでさえカ・ルマとの対峙に手を焼いているときに、
加えてそのような者の警戒をせざるをえないとは・・・
――――まさか?
カ:・・・おそらく、ガク州の州司馬の懸念もそこにあるのかもしれません。
もし、その者とカ・ルマ軍とが結託をし、挟撃―――と、言う象となれば、
いくら我々が増援しているからとはいえ、ひとたまりもありませぬからな。
〔このとき、ジン州公がふと耳にしたある情報・・・治領であるジン州の天文官からの、ある意味“警告”とも言える伝言―――
最近件の“周期”が迫っているため、ジン州の草木がざわついている模様
そう、この“件の周期”とは、カも云っていたように『満月』のことであり、
それが世にも畏るるべき遣い手・・・ 魔獣の乗り手<ビーストライダー> と呼ばれる者が、
666もの“血”と“魂”を主に捧げるために、付近を横行している・・・・
このことを、もしかするとガク州司馬はすでに知っており、これを警戒するために少しばかり慎重になりすぎているのでは・・・
と、思えなくもなかったのですが――――・・・〕