≪六節;陣中の“噂”≫
〔しかし、両州公も当初は意には介しませんでした。
それというのも、名実共に『世界最強』である軍隊が、永らくの間敵対・・・
とはしないまでも、国交もなかったこの国に対し、突如として現れたのかを。
けれども、ジン州公のカは、ここ最近フ国内で流れている“ある噂”・・・
その噂を、自分たちの敷いている陣にて耳にした事があったのです。
その噂とは・・・・ガク州公でもあり、幼王子・ホウの養育係である太傅のアヱカが、
自分の身に降りかかる禍ともなるかもしれない『ヴェルノア公国訪問』を無事に終わらせ、
実を結んだものが現実としてここにある―――と、いうこと・・・
そして、馬上より挨拶を交わせる両州公と紫苑は・・・〕
紫:まづは―――戦場でありますので、このまま馬上より失礼いたします。(ペコリ)
私は、この度の外交上の提携により、直接公主様の下命によりこの地に馳せ参じた、
諫議大夫・衛将軍である紫苑=ヴァーユ=コーデリアと、申し上げます。
コ:外交―――しかも衛将軍の紫苑・・・とは。
カ:(フフ・・)よほど彼の国の公主様に気に入れられたようですね。
紫:それは―――どういった意味なのでしょう。
カ:いえ・・・確かあなたの御ン名、いつもヴェルノアの公主様の傍につき従う『懐刀の紫苑』と、
名が似通っていましたので・・・
それにこちらのほうとしても、公主様所縁の将をして加勢していただけるとは・・・という事なのですよ。
紫:(フフ・・)それは―――“似通っている”ではなく、私本人ですよ。
〔その者は―――援軍に加勢に来た将の名を聞き、『よくも同じ名もあったものだ』としました。
対して援軍の将は、『それは紛れもなく自分本人だ』としました。
でも・・・・ここにいるのは、“上からの命”もあるけれど、“自分の意思も加わっている”という事であり、
それはこれからの戦の心強い味方になりえている事でもあったのです。〕