<第五十七章;年の新玉=前篇=>
≪一節;“挨拶”責め≫
〔あれからしばらく時は流れ―――年の改まった日の出来事でございます。
老若男女共々、旧き年の厄のみを忘れ、これから訪れるであろうとされる、新たなる年の多倖を賀する・・・
それは、この国の都城においても同様であり、また盛大に催されていたのです。〕
官:ああ―――これは王子様、年も新たになりまして、まことにおめでとうございます。
ホ:うん―――おめでとう・・・今年もよろしく頼むよ。
官:これは王子様―――今年もよろしく、そしてフ国に栄えのあらん事を・・・
ホ:うん―――ありがとう・・・
王子様――― 王子様――― 王子様―――・・・
〔そして―――ここでも、その例に漏れずフ国の諸百官より、挨拶攻めに遭われていた幼い王子様が・・・
初めは、彼も元気よく受け答えできていたものなのですが、休むまもなく・・・
それも次から次へと、矢継ぎばやに押し寄せて来るモノに、50人を越えた辺りから“飽き”が顔を覗かせ始め、
返事もだんだんと単調なものになってきてしまっていたのです。
そんな折に―――〕
―――王子様、新年おめでとうにございます。
ホ:・・・・うん。
(あっ?!)お姉ちゃん―――?
ア:はい。(ニコ)
ところで―――お疲れのご様子ですわね。
ホ:(あはは・・)・・・・うん。
だって―――こんな小さなボクに、みんなが頭を下げてくるんだもの・・・
それには、申し訳ないなぁ―――なんて思っちゃってね・・・。
ア:そうでしたか―――(ニコ)
それでは・・・これから気分転換に、お外へと参りませんか。
ホ:えっ・・・でも―――
ア:大丈夫でございますよ―――ちゃんとお母様からは許可をもらっておりますから。
〔やはり―――他の官たち同様、王子に声をかける者・・・
けれど王子がそちらのほうに顔を向けると、幼い者の顔が晴れやかになったのです。
そう・・・そのときホウ王子に声をかけた者こそ、ガク州公でありながら、幼君の養育者“太傅”であるアヱカだったのです。
アヱカは―――少し離れたところで、王子の表情などを読み取っていました。
最初は元気だったのに、次第に影を落としつつある表情に成り代わろうとしていた・・・
そのことに、人足(ひとあし)が途絶えたのを見計らい、近くに寄ってみれば・・・
明らかなる 倦怠 の意思表示に、これではいけないと思ったのか、
ホウ王子の母親である王后・リジュの許可をもらい、城の外へと出る事としたのです。〕