≪三節;震えるグラス≫
婀:―――これはこれは、珍しい顔が覗かせていると思えば・・・
久方ぶりにございますよなぁ―――リリア殿。
リ:えっっ・・・・あ、ああ―――・・・(ワナワナ〜)
婀:・・・互いの再会を祝しまして、共に杯を酌み交わそうではございませぬか。
これ―――給仕・・・こちらにグラスを二つ、用意をしてくださらぬか・・・
給:ははっ―――かしこまりました・・・
どうぞ―――
婀陀那様―――
リ:あぁっっ・・・ぁああ―――・・・(ワナワナ〜)
〔しかし―――それはリリアとて同じ事・・・
自分が疑念として抱いていた事を確かめるために、訪れた国で・・・・
今、自分が顔を向かい合わせている同じき存在に叱責された・・・
それは同時に、自分が浅慮であった事を思い知らされた瞬間であり―――
そのことが・・・今まさに思い起こされていたのです。
それゆえに、身体が慄(おのの)き―――声すらも満足に出せないでいるリリアに―――・・・〕
婀:―――では・・・こちらをそなたに・・・
リ:――――・・・・。(カタカタ・・)
婀:互いの再会と―――また、双方の国の発展を願って・・・乾杯―――
チィン―――〜☆
リ:――――・・・・。(ブルブル・ワナワナ)
婀:・・・・・いかがいたしたのじゃ、アルコールが弱いわけではありませぬでしょうに。
―――それとも・・・妾の勧める酒が、飲めぬと申すのか。
リ:・・・え? い、いえ―――け、決してそういうわけでは〜・・・
婀:では、杯を空けなされよ―――・・・
それとも―――(フッ) ヴェルノアでの、あのチェスの続きを・・・ここでいたそうか―――
リ:―――――!!!!
☆〜 カ シャァ―――ン 〜☆
〔自分たちでしか知らないはずのゴシップ・スキャンダル・・・
そのことを再現する形で衆観の目に披露するという事は、望まない事―――
それを、あの時のもう一人の当事者であった方から持ち出されたとき、
思はずも手にしていたグラスを床に落とし・・・そのまま彼女は、会場から足を遠ざけてしまったのでした。
このことを――― 一部始終見ていた紫苑は、リリアが床に落としたグラスの破片を拾いながら、
婀陀那にこう切り出したのです。〕
紫:公主様―――少々お人が悪くございませんか・・・(カチャ・・カチャ〜)
婀:されど―――あの者は過去に、妾の事を訝しんでアルルハイムまで乗り込んできた経歴を持つ。
それにはまづ先手を打っておかねば、まだあのようなマネをしでかさぬとは限ったことではない・・・。
紫:はあ・・・ですが―――
婀:―――随分と人情家になったものじゃな、紫苑。
(・・・しかし―――それにしてもナゼにハイネスの将であるリリアがここに・・・?
あのときのように『特使』ではないことは判るのじゃが・・・)
〔紫苑は―――このとき少しながらリリアには同情していました。
まあ―――以前のヴェルノアでのことは仕方がないにしても、
今回はそのことを逆手に取られ、半ば脅迫の意味合いにも取れなくもなかったから・・・
しかも、それが憧れの対象としていた方からなされるとどんなだろう―――
そのことは、もはや説明するまでもなく、リリアが直接態度にして表していたことには、他ならなかった事でしょう。
けれども―――婀陀那はまた別の視点からこのことを捉えていたのです。
自分の国―――ヴェルノアであった出来事は、紫苑の報告と、
自分の=影武者=となっているルリ某の両方から受けていたので、コトの詳細は知っていたのですが。
ハイネス・ブルグでも名のある将であるリリアが、何かしらの理由でか、この地に赴いている・・・
まさに、その一点に―――だったのです。〕