≪五節;“飾らない”存在(ひと)・・・≫
〔一方―――リリアは、せっかく憧れの人と巡り会えたというのに、
以前あった出来事で弱みを握られてしまい、そのことの続きをこの場でなそうか―――との、
半ば意趣返しとも取れなくもないモノで返されそうになってしまっていたとき・・・
いわばホウホウの体(てい)で場外へと離脱してしまったのです。
するとそこで―――・・・〕
リ:うぅっ―――うっ・・うっ・・・(ポロポロ〜)
イ:(あら―――? あれは・・・ あの子ったら・・・どうしてあそこで泣いているのでしょう―――)
ア:・・・あの―――どうかなされたのですか。
リ:え・・・?(すん・・すん――) (・・・だ、誰? この人―――)
ア:・・・どうして泣いていらっしゃるのか、事情は判りませんが―――
(ス・・)これで涕をお拭きになられて下さい・・・。
リ:あ――― す、すみません・・・。
イ:それにしても―――どうしたというのです、あなたが年賀の席ではなく、会場外のこんなところで泣いているなんて。
リ:イセリア―――この人は誰?
ア:イセリア―――って・・・この方のお名前を知っていらしているあなた様は・・・
イ:お恐れながら太傅様―――この者は私と同じ国の出身者である、リリアと申す者なのです。
リ:え・・・太傅―――? この・・・女性が? だとするとあの人の云っていたガク州公様・・・って―――
ア:あの・・・お言葉を返すようではございますが、わたくしは太傅などというような大逸れた者ではございません。
ただ―――王子様のお母上様から、王子様の養育のほうを頼む・・・と、だけ―――
イ:・・・ですが―――そのような役目についている者の事を、私たちは 太傅 と呼んでいるのでございますよ。
―――しかし・・・あなた様ご本人が、その様な呼ばれ様をお気に召さぬのであれば、
これからはどうお呼び立てすればよろしいのでしょうか。
〔打ちひしがれて泣いていたリリアを慰めた存在がいました・・・
その人はリリアの見知らぬ顔―――けれど、困っている者を放ってはおけない性分なのか、
なんら迷う様子すら見せずに、すぐさまリリアの近くまで来て膝を屈め、懐から布の生地を取り出してくれたのです。
しかし―――その人物こそ、ジン州公様より聞かされていた 太傅 であり、
機会があれば会ってみたいともしていた ガク州公 ・・・
アヱカ=ラー=ガラドリエル
その人だったのです。
しかも、イセリアから 太傅 と呼ばれたのが、不当であると云わんばかりに言葉を返し、
ではどう呼べばいいのか―――と、イセリアが逆に訊ねれば・・・〕
ア:えぇっ―――・・・と、どう呼んだら〜〜・・・ですか?
そう――――・・・・ですわね・・・出来れば アヱカ と。
イ:ウフフ―――主従の契りを、未だ交わさないのに、いきなりお名前を―――から、ですか?
それこそ周囲りの者からしてみれば、不当なものだと映りましょう。
ア:ああ―――そう云われてみれば、そうですわね・・・
ン〜〜―――と・・・え、と〜〜〜・・・・
リ:――――・・・。(呆カン・・)
イ:それでは―――ガク州公様ではいかがでしょう。
ア:・・・ガク州公ですか・・・。
そうですね、ではとりあえずはそう呼んで頂く事といたしましょう。
〔リリアは、さながらに感嘆をしていました。
元来“人間”というものは、賛辞の言葉や賞賛されるといい気分に浸れてしまう―――
それが身分や勲功ともなると、“○○候”や“○○将軍”などのような肩書きばかりに目や耳が奪われてしまうというのに―――・・・
それがこのアヱカという人物は、逆にそうされる事を望んではおらず、
いや―――むしろそうされる事を迷惑がっているかのような・・・まるで飾り気のない存在・・・
自分や―――自分が知っている多くの将官たちとは、まったく違っている気質・・・
ただそのことに驚いていたのです。〕