<第五十九章;新たなる使命>
≪一節;どよめく場内≫
〔新しき年が明けたその数週間後、皮肉にも彼女たちは、棄ててきた自分たちの国にいました。
そのうちの一人、ハイネス・ブルグとフの境近くにあるヤンセン砦に駐留する、“月”のリリアは―――・・・〕
リ:あ〜あ・・・イセリアったら、勢いに任せて、私たちが亡命してきた事をペロッと喋っちゃうんだもんなぁ〜・・・
しかも、あの後婀陀那様・・・・に、すごくよく似ていらっしゃる方と、口論になっちゃうし―――
ついてないんだわぁ〜〜―――(はぁ〜・・・)
〔そう―――リリアは・・・いえ、彼女だけに係わらず、彼女を含む“雪月花”の三人と、
元クー・ナの将校であるミルディン・ギルダスの二人は、
リリアたちの故国でもあるハイネス・ブルグを見限って、フ国へと亡命してきたというのに、
その年の・・・新年の行事に参加をしたとき、フ国の一将官と口論となってしまい、
また、おそらくはその将官の根回しなどによって、この五人共々、
またもやハイネス・ブルグへと戻された―――と、いう象(かたち)になってしまっていたのです。
でも―――・・・ならばどうして、リリアたちはその将官の言っていることを享受しなければならなかったのでしょうか。
では・・・その一部始終を――――“雪”のイセリアが広言憚らなかったあの場面に遡ってみる事にいたしましょう・・・〕
―――私たちは、この国に亡命してきたのでございます!!―――
――― しぃ〜ん・・・ ―――
〔その女性の一言は―――今までお祭り騒ぎに興じていた、その会場を・・・・
まるで水を打ったかのように静まりかえさせてしまったものでした。
そしてしばらくして・・・〕
官:この国に亡命を―――?
官:いや・・・確かに、あの礼装はわが国のものではないとは思っていたが・・・
官:それにしても―――亡命とは、穏やかではありませんなぁ。
――〜〜わいわい ざわざわ〜〜――
〔この国の官たちは、互いに隣り合っている者達と、耳打ち囁きあっていました。
しかも、新年の行事に色めきたちすぎる事を揚言してしまった事に、
一時場内は騒然となった・・・・
――――はず・・・でしたが。〕
リ:(あぁ〜〜っ・・・イセリアッたら、なんて事を言い出すの?
私たちが国を棄てた事を、そんなことを声を大にして云わなくてもいいのに〜〜―――)
セ:(そうよ・・・それに、相手はあの―――ヴェルノアの公主様とよく似ていらっしゃる・・・)
婀:――――・・・・。
〔しばらく・・・・婀陀那は、微動だにしないまま“雪”の宿将と向かい合っていました。
でもそれは―――この者が偽りを申しているか・・・を、見定めるが如くであり・・・
この国―――フ国の諸百官がどう出るか・・・・を、見定めるが如くであり・・・〕