≪五節;説得≫
イ:この私に―――それをやれと??
婀:―――・・・・・。
〔彼女は―――イセリアは、その将官から、
他の彼ら・・・リリアやセシル、ミルディンにギルダスを統括する者―――と、呼ばれた事にさえ不適当だとも思っていたのに・・・
この人物―――いわゆるヴェルノアの公主に恐ろしく良く似た 婀陀那某 と呼ばれている者の、
その頼み事に戸惑いを感じていたのです。
なぜならば・・・その将官の頼み事というのが―――〕
婀:・・・やはり出来ませぬか―――
イ:・・・やってやれないことはないでしょうが―――
婀:願わくば―――この策にそなたを当てた理由・・・・か。
ふうむ―――いや、実はこの策そのものは妾のモノではなく、とある者からの献策によるものなのじゃ。
イ:とある・・・者?
婀:まあ―――その者の名は追々明かせるとして・・・
そなたも知っての通り―――この大陸随一の米処を、黒き国に抑えられてしもうた・・・。
イ:・・・クー・ナ―――
婀:―――然様。
実は、かの国が難なく取られたのも、それなりの理由がある。
イ:―――昨今の噂では、元々あの国の将校だった者達が、件の“電撃戦”の指揮をしたから・・・だとか。
婀:―――まあそこもあるのじゃが・・・
一つには、近隣諸国の対応が鈍かった事―――
イ:―――しかし! ・・・あの当時は、私たちも国境を攻め立てられて―――
婀:それはフ国とて同じコト・・・
やはり同時期―――カ・ルマよりの侵攻があったそうな・・・
イ:・・・では――――
婀:いかにも―――・・・
まあ―――その当時は、妾もまたアルルハイムにて脾肉を嘆じておったので、非難しむるのは甚だ場違いなのじゃが・・・
―――今お聞きの通り、あの国の魔手はこの大陸全土に蔓延しつつある・・・と、見てよろしかろうと思う。
それに、まづいことにこの国の将官共の眼は、今現在西方に向いておる・・・
イ:―――なるほど・・・
婀:おあつらえ向きに―――そなたらが来るまでは、東方の出身者は、妾と・・・紫苑のみ―――
それに、フ国がせいぜい出兵できうるのは、同国ジン州のテレルテレバまで・・・
イ:――――!!!
婀:――――と、太傅殿の一の家臣、タケル某が云っておった・・・。
イ:・・・タケル―――といえば、西国ラー・ジャは、稀代の軍略家としても名高いシノーラ家の・・・??!
しかも、ガク州様の第一家臣だと!?
婀:―――いかが・・・で、ございますかな。
〔畏るべきはその戦略眼―――と、イセリアはさながらに思いました。
それに、おそらくは婀陀那も同じ観点なのだろうと、思いもしたのです。
その理由の一つとしては、執拗なガク州への侵攻―――
そのことに関して、フ国将官の眼が西方に集中しているという事・・・。
事実―――そうなってしまっている時期に、クー・ナが陥落してしまっているのです。
それに、だとするならば―――この国が、東方においてカ・ルマからの侵攻を防ぐために出兵できる最低のラインは、
同国の、ジン州・テレルテレバという地域まで―――・・・
それにあわせるかのように、東方を知る者は、婀陀那と紫苑の二名のみ・・・・
これでは、防ぎきれるかどうか―――の瀬戸際でもあったがために、この度のイセリアたちの亡命の件は、
むしろ婀陀那たちにしてみれば好都合でもあったのです。〕