<第六章;一時(ひととき)の休息>
≪一節;解けた誤解≫
〔さても、この女頭領の仕組んだ事とは、自分達の組織「ギルド」を利用するだけ利用しようとした、「カルマ」に一泡吹かせることであり、
何も姫君を、虜囚の身にしよう・・・と、云う事のようではなかったのです。
ですが・・・
そう、それは同時に、カルマに宣戦布告をしてしまう形にもなりかねなかったのです。
しかも、一つの国家ならまだしも、一つの組織が国家に対抗しよう・・・・などということは、
大分(だいぶ)――――と、いうか、かなり無理があったのです。〕
婀:(フ・・・ッ、我ながら、とんでもないことを思いついたものよ。
じゃが・・・一度心に決めた事、今更引くわけには参らぬ。
それに・・・勝ちの判っておる戦をするというのも、面白味に欠けるというものよ。)
〔この、女頭領の「一度心に決めた事故に、今更引くわけには・・・」とは、なんとも豪気と申しましょうか、無謀とでも申しましようか・・・・
その胆力の大きさには、驚かされるものがあるようです。
そして、しばらくして・・・〕
ア:あの・・・すみません、一つお伺いしたいことが・・・・
婀:うむ、何でございますかな?
ア:どうして、このようなことを?
婀:「このようなこと」―――とは?
ア:あの者達の狙いは、わたくしのこの命・・・それを助けて下さったのは、感謝いたしております。
ですが・・・それが判ってしまったなら、あなた方にも、被害が及びはしないでしょうか?
婀:・・・・・・。
ア:わたくしは・・・存在しうる、その事自体で他の人達に迷惑を及ぼしてしまう存在です・・・。
これ以上、あなた方にご迷惑は―――
―――そんなことはない―――
ア:えっ??
婀:そんなことは・・・・一向にありませぬよ、姫君。
それに第一、先に喧嘩を吹っかけてきたのは、あちら側じゃ。
ア:―――喧嘩??
婀:この、妾の組織「ギルド」を利用するだけ利用しよう・・・と、いった・・・・な。
それにこちらには、あなた様を護る・・・と、いう大義名分もあることじゃし、とことんまで楯突いてみせるわ・・・
ア―――――ッハッハハハ!
ア:(そんな・・・無茶な)
〔まず・・・姫君は、女頭領に助けてもらった事を一通り感謝し、その上で、自分が彼女達にとって、どんなに不利益になる存在になるか・・・を申し述べたようです。
しかし――― この女頭領も然る者、そのような事は一向に介さず、この事も「喧嘩」と、ふしてしまったのです。
やもすれば・・・一国家と戦争になりかねないものを、その豪胆さは、まさに女傑というに相応しかったでしょう。〕
婀:(しかし――― まず、自分の事よりも、妾達の心配をする・・・とは、
姫君、あなた様の今のお言葉、そのお気持ち、それだけでこの妾の闘志を漲(みなぎ)らせてくれますよ・・・)
〔そしてもう一つ、この女頭領の心に決めた事―――とは、姫君・・・いや、「女禍の魂」を有するお方と運命を供にしよう・・・そう思ったに違いはなかったようです。〕
婀:おぉ――― そうじゃ、一つ忘れておりましたわ。
ア:えっ――? なにを・・・です?
婀:・・・・これ・・・で、ございますよ。
ア:ああっ―――! こ、これは―――・・・
〔ここで女頭領、自分の鎧の下に身につけておいた、「あるモノ」を外し姫君に渡したようです・・・
そして姫君も、その「あるモノ」を見て驚嘆してしまったのです。
なぜなら・・・それこそは、以前自分がうっかり落としてしまって、失くしたと思われたモノ・・・今は亡き―――母の唯一の形見・・・・
そう、姫君の国「テラ」の紋章があしらわれた、あのロザリオだったのです。〕
ア:あ・・・あの・・・・ど、どうしてこれを・・・?
婀:うん?これ・・・・ですか、これはですな・・・
妾の組織の一員が、偶然にも拾った―――と、いうものでして、その造り込みに惚れた妾が、これを貰い受けた―――と、云うことなのですよ。
ア:まぁ・・・。
婀:ですが・・・とある時に、妾の専属の鑑定士がこれを見て、
これが、姫君の国「テラ」のものであり、その王族・・・つまり、あなた様こそがその真の持ち主である・・・と、いうことが発覚したのですよ。
ア:そうですか・・・・そんなことが・・・
婀:どれ・・・妾がつけてしんぜよう・・・
フ・・・やはり、収まるものは、収まるべきところに、然るべくしてあるものよ・・・・
ア:(え・・・・っ)
婀:ふぅ・・・・それにしても、これを着けておった時に、どうも原因不明の肩こりに悩まされておったのじゃが・・・
今では不思議と軽ぅなった気分じゃ・・・・・。
妾には、その重責は身に余る・・・あなた様の国、テラを復興させる・・・と、いう重責は・・・な。
ア:どうも・・・申し訳ございません・・・。
この身を、保護してもらっただけではなく、大事なものを今まで預かって頂いていたなんて・・・。
このお礼、どのようにして返していいものか・・・・
婀:その事なら、気にせんで下され。
この事が分からねば、妾はなにやら得体の知れぬ重責に耐えかね、ワケも分からぬうちに潰されておった事に、相違ございませぬからなぁ・・・。
ア:まあ・・・あなた様は、存外に面白い事を云われるのですね。
婀:や―――これはこれは、少々軽口が過ぎましたかな? アッハハハハ!
〔これは―――女頭領が、姫君にロザリオを返した時になされたやり取り・・・
女頭領は、姫君の国の復興をその眼中においていたようですが、「重責に耐えかねて―――」とは、まことに苦しい言い訳ながらも、
姫君は、その事には全くといっていいほど触れようとはしなかったのです。〕