≪二節;女頭領の懐刀≫
〔そして、二人とも無事夜ノ街に帰還。
姫君の身も、あの時と変わらず女頭領の部屋に置かれた・・・と、いうことのようです。〕
ア:あの―――・・・ここを?
婀:ぅん?うむ・・・何卒遠慮なく使われて結構ですよ。
ア:そんな・・・・お気持ちはありがたいのですが、やはり悪いです。
婀:ほぅ――― それは、ナゼでございますかな?
ア:だって・・・わたくしは、ここの国の人間ではありませんもの―――
婀:アッ―――ハハハハ!
ア:えっ?な・・・なにが、一体そんなにおかしいのです?
婀:い、いや――― これは失礼。
姫君、ひょっとして―――あなた様は、ここが一つの国家だと思っていたのですか?
ア:はい―――
婀:―――でしょうな。
そうでなければ、そう突飛な事は申されぬはずですから。
ア:―――違う・・・の、ですか?
婀:確かに―――ここは一つの「組織」ではありますが、「国家」ではございませぬ。
それに、この土地土着の民など、あってなきようなもの・・・・
ア:えっ―――?
婀:つまり、平たく申せば。
ここは“列強”という国々から、その圧政より逃れえんがために、逃げ出した者達の格好の隠れ場所みたいなもの―――なのですよ。
ア:そ、それでは・・・・あなた様も??
婀:・・・・・確かに―――妾も、ここの・・・土着の民―――ではない。
ア:では――― 一体どこの・・・?
〔しかし女頭領、この質問に答えることはなく・・・しかも、少し厳しく冥い表情をしたのです。〕
婀:・・・・・それは―――今、話さねばならぬことでしょうや?
ア:(あ・・・)いえ―――・・・
婀:申し訳ない・・・・まあ、そのうち、話す事もございましょう・・・・
ア:いえ、こちらこそ―――いらぬ詮索をしてしまったようで・・・
〔この女頭領―――確かに、今までも厳しい表情をしたことはあっても、今のようにその面持ちに影を落とすような冥い表情はしたことがなかったのです。
これには姫君も、さすがに悪いと思い陳謝の一言を入れたようです・・・。〕
婀:それより―――あなた様も、これより一人でやっていかれるのは大変でございましょう。
よろしければ、妾の下(もと)で働いておる者を一人選別して差し上げますが?
ア:えっ―――そ、それは悪いです、それにわたくし、何も一人で出来ぬような子供では―――
婀:分かっておりまするよ。
ですが、ここは姫君が今まで住んでいた処とは勝手が違うのです。
まぁ―――妾がずっと付きっ切りでいてやればよいのじゃが・・・
姫君のような、野に咲く菫草のような、あえかなる方には・・・ここは、「ギルド」は相応しくは・・・・ない。
ア:で、でも・・・それでは、あなた様は?
婀:ぅん?妾のことを、心配しておいでか?
フッ・・・しかし―――妾は、もう・・・後戻りは出来ぬ・・・・
もう、この手は・・・元のような、綺麗な手に戻ることはない、穢れきってしもうておるのじゃ・・・・
ア:(え―――?) あ・・・あの・・・?
婀:おっ―――これはこれは、いらぬことを申してしまったようじゃな。
どれ、妾はこれから執務のほうがありますから、追って姫君の世話をするものを向かわせますよ。
では・・・・
〔どうやら女頭領が、自分の部屋から出る間際に、この姫君の下で世話をする者を一人つけるように提案してきたのです。
ですが・・・姫君も、さすがにそれは気が引けるのか、断りを入れはするのですが・・・・
女頭領は、可憐で嫋(たおや)かなこの方に、自分と同じ運命は辿らせたくはなかったようで、
その気持ちは、彼女自身の言葉の中にも明確に現れていたようです。
そして―――女頭領が、自分の部屋を出てしばらく経った時、この部屋に一人の女性が来たようです・・・〕
紫:(紫苑;女性;26歳;ギルドの構成員の一人―――というよりも、女頭領の世話をする係・・・のようではあるが・・・?)
―――お待たせいたしました。
ア:あ・・・はい。 あの、あなた・・・は?
紫:はい、これよりあなた様のお世話をするように、こぅ・・・・いえ、頭領から言われた者でございます。
ア:(こう・・・?)そ、そうですか・・・。
あの、わたくしは「アヱカ」という者でございます。
紫:私は―――「紫苑」と申す者です。
何かと御用の際は、お申し付けくださいませ。
〔この紫苑(しおん)という女性、真(まこと)ギルドの一員ならば、どこか粗さの目立ちそうなものを・・・・
その容姿―――言葉遣い―――立ち居振る舞い―――・・・どれをとっても、この姫君や女頭領と比べても遜色しなかったのです。
ですが―――女頭領の事を、この女性は「こぅ・・・」とも言いかけたようですが・・・・
そんな一縷の疑問を抱きながらも、姫君のここでの生活が始まったのです。〕