≪三節;姫君と、そのお世話をする者≫

 

 

〔さて―――姫君も、ここ「ギルド」での生活を余儀なくされた・・・とはいえ、その身は限りなく自由そのものだった・・・といえたのです。

その理由の一つには、女頭領がギルドの盗賊共に、「彼のお方は、自分が招いた食客である。」・・・と、触れておいたことにもあったようだからなのです。

 

それに、これは・・・当初、ギルドの盗賊共にとっては不思議な事だったのです。

なぜならば―――この姫君は、先立ってのカルマとの取引に、取り沙汰された者だったのだから・・・・

 

それゆえに盗賊共は、この姫君に対して気後(きおく)れをしていたよう・・・・・なのですが・・・・。〕

 

 

ア:これはこれは、お早うにございます・・・。

  よく、ご精の出ることでございますわね。

 

盗:えっ?! あっ・・・こりゃあ、どうもで・・・・

 

 

〔どうやら、先に声をかけたのは姫君のようです。

自分達は、このお方に対して「取引の道具」にした・・・と、云う後ろめたさがあるため、顔もまともに見せられない・・・と、いうのに、

それが当事者から「軽い会釈」・・・とは、思っても見なかった事でしょう。〕

 

 

紫:あの・・・失礼ですが、どうして今のような者に?

ア:はい、なんで・・・えっ?あの方が、どうかいたしたのですか?

 

紫:いえ・・・どうして、会釈などを交わされたのか・・・と。

ア:特別な意味は、ございません。

  わたくし達は、いうなれば同じ屋根の下で暮らす者同士・・・しかもわたくしは、あの方々より後に来させていただいているのです。

  新参者が、先にご挨拶申し上げるのは、当然の成り行きではございませんでしょうか?

 

紫:そう・・・でありましたか。

  (成る程・・・婀陀那様が一目置かれるわけだ・・・。

  この者達には、「このお方にご迷惑をかけた―――」と、云う後ろめたさがあるのに、このお方は、それをものともせず・・・・)

 

 

〔今の、この姫君の一連の所作は、この方の世話と、この方がどういうお方であるかを自分なりに見極めるように、

主上に仰せ遣わされた者にとって、今更ながらに感服していた事でしょう。

 

そして、それはこんなところにも―――それはある日の、お昼時の事だったようです。

姫君、これから出かけるのか・・・身支度を整えていたところへ、お世話係が―――〕

 

 

紫:あの・・・・どちらへ?

ア:はい? えぇ―――これから、お昼を採りに外へ・・・

 

紫:でしたら、そのようなことをされずとも―――・・・ひょっとして、ここのお味は、お口に合われないとか・・・?

ア:いえ―――決してそのような事は・・・。

  わたくしは、ただ・・・・皆様と同じものを口にしたいだけなのです。

 

  今までのように、一つの国家の当主の娘・・・ではございませんので・・・。

 

紫:あ・・・。

  (ふぅむ・・・)それでは不肖、この私めもご一緒させていただきます。

 

ア:そうですか、それでは・・・お召し換えをしていただかないと。

紫:え?それは・・・どうして―――

 

ア:だって・・・今のあなた様のその衣装、婀陀那さんからの賜り物なのでしょうけれど・・・

  他の皆様のよりも雅やかで・・・これから会われる方々にも、羨望―――果ては敬意の対象にもなりかねませんですからね。

 

紫:(なんと・・・!! このお方は、そんなところまで・・・ありがたいものだ―――・・・)

  ・・・承知いたしました。

  では、私もこれから細心の注意を払い、今後はこのような派手な衣装などは―――・・・

 

ア:いえ、何もそこまでせよとは・・・・

  ただ、組織の幹部と思(おぼ)しき者が、下々の方々と同席するには不釣合いなのでは―――と、思い申し上げたまでの事・・・

  お気に障(さわ)られたのでしたら、撤回させて下さい・・・・

 

紫:う゛・・・(むむぅ〜―――・・・)

  わ、分かりました・・・。

  では、ここにいる時分にはこのままで、そして市井(しせい)を出歩く際には、皆と同じもので・・・・それで、よろしゅうございますな?

 

ア:あ・・・は、はい。

  よかった―――ご理解いただけて・・・。

 

紫:はは・・・。

  (いや、しかし大したものだ・・・・下々の・・・いや、民の事だけではなく、それを統括する我々の事までも慮(おもんばか)って下さるとは・・・・)

 

 

〔このとき姫君は、外食を思い立ったようなのです。

ですが―――その理由も、何もギルドの味が好み―――とかではなく、一般庶民の味を・・・との事だったのです。

 

そして、お世話係も同席を願い出、それを受理された―――まではよかったのですが、どうもそれは条件付で・・・と、いうことのようなのです。

では、その条件とは―――

 

それは、ここの住民となんら変わらない衣装に着替える事だったのです。

(それというのも、女頭領と、この姫君のお世話係の着ている衣服というのが、他の者達とは一線を画していたものであり、

繊維も綿や麻などではなく、高級な絹をふんだんに使っていたモノのようだったのだから・・・目立ちすぎる嫌いはあったようです。)

 

それに際し、お世話係も「今後一切は・・・・」とするのですが、実は姫君が云いたかったのはそういうことではなく、

市井を出歩くにしても、それでは一般市民からどういう風に見られているのかを知っていたからなのでしょう・・・

だからそこまで気を遣わせてしまったことに、姫君は詫びを入れたのです。

それに・・・そのことに一早く気付いたお世話役も、中々機転は利くようです。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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