<第六十一章;相、(まみ)える者達>

 

≪一節;時代の流れを読む者≫

 

 

〔その日は―――陽射しも穏やかで、治水工事や練兵には程よい気候でした。

 

キリエは・・・州の田に、遍(あまね)く水が行き渡らせるよう、州丞であるタケルの協力の下に検地を終わらせ、

サディールという地域から水を取り入れたほうが最適であるとの見解に達し、

州兵を動員して灌漑用の用水路を構築させ始めたのでした。

 

ヒは・・・幾度となくカ・ルマ軍と当たった経験があることから、州兵の鍛錬を担い、

これまでにない厳しい訓練を課していきました。

 

タケルは・・・州公であるアヱカのいない間、州政を代行し―――

しかしやはり、手際が恐ろしくよいので、ある程度の民からの訴状を溜め込んでおく・・・と、云うのは、もはや慣習のようなものでした。

 

それでは、彼はそうなるまでに一体何をしているのか・・・〕

 

 

タ:(ふぅむ・・・今ここは、“刻の中心”にある・・・。

  ヴェルノアの公主や、雪月花の三将・・・彼の者たちが、年が改まるのを契機に、この地に集ってきているのは、

  もはや疑いようのない事実―――・・・

  まあ、それはワシも・・・なのだがな―――)

 

 

〔彼は、州公の部屋で一人静かに物思いに耽(ふけ)っていました。

 

それは―――ここ最近で起こった大きな出来事・・・新年の祝席で、亡命してきた事の由を揚言した、

雪月花の雪の将―――イセリア・・・

また、彼女と共に来ていた月の将リリアや花の将セシル、クー・ナのホワイトナイツ・・・ミルディンとギルダス―――

 

そして、ヴェルノアの公主である婀陀那が、一堂に会したあの祝席でのことを 特異点 であると感じ、

もうすぐ≪歴史の転換≫が訪れるであろうことを予期しつつあったのです。〕

 

 

タ:(さて―――それではこの先をどうするか・・・だが―――

  やはりここは制度を大幅に変える必要性がある様だ・・・な。

 

  それに、今の制度というのは“民”にではなく、むしろ“官”やそり取り巻きの商人などが富める・・・という、

  強(あなが)ち偏ったモノになってしまっている。

  だから国の内部に、政治の利権を専横せんとする奸臣たちが蔓延(はびこ)ったりするのだ。

 

  まあ、確かに“国が富める”・・・という目的であれば、そちらのほうが都合が良いのであろうが―――・・・

 

  ワシも・・・ワシの主であるお方も、そちらのほうは望んではいない・・・

  ならばいっそのこと―――)

 

 

〔タケルの眼中には、もうすでに現在の国々の有り方は映ってはいませんでした。

 

『人民』とは云えども、それは限られた存在―――“大商人”や“国の官吏”といったような、一握の者達を擁護するという、

現在の法や制度の数々は、=列強=を含む<国>という単位を富ませるものではあったのですが、

では、その<国>の根幹たる“民”の実情としてはどうだったろう―――・・・

 

それこそは、以前のガク州がそうであったように、倹(つま)しい暮らし・・・なれど、きつく取り立てられる“税”―――

 

一握の富める者達は、左団扇で暮らしていても、大半の民たちは貧しさに耐えながら日々を暮らしていかなければならない・・・

 

ならば―――それを覆してしまうには・・・・

 

云うなれば、ここ最近のタケルの頭の中にはそれだけしかなかった―――と、言及しても良かったでしょう。

ですが、それをしてしまうには今の現状では無理らしからぬ話・・・もう少し時機を見計らなければ―――・・・

“民”の心が、“王侯”より離れんとするその刻を―――・・・

 

その刻までには、少なくとも新しい制度を―――

そして、この大改革を推し進められるだけの、強力な後ろ盾をこちら側につけておかなければならない。

けれど・・・しかし―――贅沢な暮らししか知らない者の一人でもある“あの方”は、

果たしてこちら側についていただけるだろうか・・・?

 

そんな不安な要素も、一縷にはあったのです。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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