≪二節;治水工事と鍛錬≫
〔その一方―――この地に感慨の用水路を引くべく、工事を指揮しているキリエは・・・〕
キ:(はぁ〜〜あ・・・みんな納得半分―――って顔をしているわね・・・
それはそうよね、だって・・・普段は剣や槍を持ってるのに、今は鍬や鋤なんだもの・・・
腐る気持は判らなくもないけど・・・州公様からのご命令ですものね・・・。)
〔キリエは―――今、州兵たちがどんな顔をして治水工事に従事しているのか、
この命令が出されたその当初から承知をしていました。
なにしろ―――キリエこそは、古えの帝国である≪シャクラディア≫で、
軍務の片手間には、“皇”であるお方の趣味のお手伝いをさせられていた時期があったのですから・・・。
当時は、まだキリエも相当に若かった事から、すぐに不満の色が顔に出てしまい、
そこを“丞相”というお方に見咎められ、ヨロシク軍務からはずされ、“以後は国家の農政に携わるよう―――”
と、言い渡されたときには、さすがに泣きたくても泣けなかった・・・
そこを“皇”であるあのお方に“可哀想だから―――”と云う事で、助けてもらった事があったのです。
“皇”も“丞相”も、キリエにとっては畏れる存在ではありながらも、同時に可愛がってもらった存在・・・
厳しく叱られた事は幾度となくあったけれども、褒められたりした時は、何ものにも代え難かった―――・・・
それは今でも同じ事―――けれども、少し違ってきているように感じるのは、自分もあの頃よりは成長をしており、
“皇”の苦悩も―――悦びも―――共に分かち合えるようになってきた・・・と、云う事。
だから―――今は不満はあるかもしれないけれど、やはりここは自分が先頭となって、
彼らの指標とならなければ・・・そう思い、キリエ自身も鍬を片手に、土木工事に従事するのです。
一方のヒは―――・・・〕
ヒ:おら、おら〜〜―――! ナニそこちんたらやってやがんだ〜〜―――?!
そんなへっぴり腰で、あいつら追っ払えるわきゃねぇだろうが!!
兵:そ・・・そうは云いますが〜〜将軍―――
ヒ:ああ゛?! そうぢゃねぇだろうが―――! こう―――だよ、こう!!
こう・・・腰をどーんと構えて、相手の攻撃を受け止めたら〜〜
こうはじき返して〜〜敵が怯(ひる)んだスキに―――!
〜ドスン!☆〜
兵:わうっ?!
ヒ:―――な?
ンでもって〜〜敵が起き上がるまでに〜〜もう一撃―――
〜コツン☆〜
兵:イテ・・・
ヒ:いいかぁ〜〜―――ここで必ず止めは刺しておけよ。
もしかすると死んだフリしてるヤツもいるかもしれねぇからな。
死んでると思って油断して背中向けたときに〜〜―――ってのは、割と良くある事だぞ。
〔ヒは、いつにも増して厳しくなっていました。
それに、彼自身の口からも出たように、死んだフリをしていた敵兵に背を向け、油断したときに―――とは、
よく目にしていた光景・・・
アレは卑怯な手口だ―――と、キリエに文句を言ったときに、
よろしくも彼女からは、『油断したほうが悪い』・・・その一言で片付けられた―――
でも、そんな冷たい言葉とは裏腹な表情・・・
一番無念なのは―――誰でもない・・・騙し討ち同然で命を落としてしまった、その兵士・・・その家族・・・
そして、戦場で生き延びる術を教えてやれなかった、州司馬自身・・・
そんな悔しさ余ってのあの表情に、何を感じたのか―――
ヒも、いつしから、単調な訓練ではなく、戦場で生き抜く術に重点を置いたものへとなっていたのです。〕