≪四節;屍骸愛好家≫
〔それとはまた別の話しで―――・・・
それは、お話しの時間の軸を、ほんの少し遡らせた時のこと・・・
現在の刻よりも、二年とわずか前―――場所は・・・事象の始まり・・・『テラ国』。
そう、このお話し一番最初の説話で、亡んでしまったアヱカ姫の故国・・・
その国の、まさにあの場面―――見ると、自分たちが護るべき存在を、その命をかけて奮闘した、
あの二人の護衛将の屍骸の下に、魔将率いる軍に従事していた者が近寄り・・・〕
ボ:(ボクオーン;斯くも薄気味悪い衣を纏った“魔導師”、この者の目的とは一体・・・)
むひょひょひょ―――なんとも活きのいい死体だわい。
あ゛~~その辺に飛び散っておる肉片も総て拾い集めろよ、
何しろ一つでも欠けると、あとあと大変な事になるからな・・・。
〔“屍骸愛好家”<ネクロフィリア>―――・・・
それは、すでに魂が肉体という器を離れ、その“生”という使命を終え、これから安らかなる眠りに就き、土へと還る・・・
けれども、その奇行は自然の摂理あるがままにならず、すでに役目を終えた“器”に、
何かしらの行為で命を吹き込み、再び活動を可能にさせる・・・と、云う禁忌の術式。
人―――それを 屍巫術≪ネクロマンシー≫ と、云う・・・
この・・・自然の摂理からはみ出し、ガルバディアでも一部の地域でしか伝わらなかった悪習を好む者のなせる業―――
しかし・・・この者が狙っていたのは、
テ・ラ国姫君アヱカの身を護るべく、華々しく散って逝った兄妹の護衛―――ガムラとマサラ・・・
その二人だったのです。
そして―――二人の屍骸を、コキュートスの私室に持ち帰った者は・・・〕
ボ:(グフフフ―――本来ならば、大事なコレクションを動かせるなど、我輩の嗜好に反する事だが、
ほかならぬサウロン様の思し召しとあらば、仕方がない・・・と、云うもの。
それにこの二つは、件の者の一番身近な者であると云うしなぁ・・・
上手くすれば、カ・ルマでの我輩の地位も上がり、いづれは魔将の一角をも担ってくれるわ。
しかも―――・・・ここ最近は何かとついておる。
何しろヴァーナムの麓で、あの山脈の雪崩に巻き込まれたのか、身元不明の女の屍体が数体・・・とは―――
これもなにかの啓示やもしれんの・・・)
〔破損し―――どうにか原形をとどめているまでに修復された屍骸・・・
けれども、このネクロフィリアの云うには、まだ他の・・・それも 女 たちの屍骸が―――
これは、その土地の者がヴァーナム山脈に入り、
そこで万病に効く薬草だとか、百年に一度しか花をつけない珍しい植物を採取するためだとか―――
そういったことをするに際し、遭難をしてしまったのか・・・とも思われなくもなかったのですが。
実は―――その数人の女たちの屍骸だけに関しては、彼女たちの身につけていた衣服は、
ガルバディア大陸にあるどの地域・国家にも属するものではなかったのです。
では・・・この数人の女たちは、一体どこから来た者―――?
それは―――・・・〕