≪二節;遺言状≫
〔実は―――アヱカは、ホウ王子と共にこの場には来ていたのですが、
自分は、フ国王家になんら関わりがない人間であるとして、
決して王の病室へは立ち入る事はなかったのです。
ですが―――・・・
国王の遺す言の葉となる、あるモノを確認するときには、
国王の后であるものから、須らく確認をするよう要請があったのです。〕
リ:太傅殿―――これが殿の遺す言の葉です・・・よく目を通して下され・・・。
ア:それでは、謹んで拝観いたします―――
〔これから死に逝く国王の遺言―――そこには一体何が書かれていたのでしょうか。
一、太子ヒョウを我が跡目となする事
一、かの者が王の器ではない者だとしても、
官全員でこれを守り立てる事
一、かかる上は、是非もない事であるとし、
よろしく周辺の列強と手を結んでいく事
とりわけヴェルノアとは、血のつながりもあることから、
かの国を刺激しないよう、手を取り合って末永い関係を築いていく事
―――以上、よろしく取り計らい候事・・・
これを一読したアヱカは―――〕
ア:―――これでよろしいです、以上のこと須らく承りました。
リ:あの・・・アヱカ殿―――
ア:これで・・・よいのです―――
この国には有望な跡取りが二人もいるではありませんか。
それに、私や録尚書事様は、元来他国出身の身・・・憚られる事です。
〔彼女の言葉は―――始めてこの遺言状に目を通した者の言葉ではありませんでした。
そう―――実は・・・こういうこともあらんことよと、すでにアヱカによって検閲修正されたものだったのです。
だとするならば・・・検閲前の―――原文はどんなものだったのでしょうか・・・
それこそは―――
一、かの者が王の器ではない者なれば、
よろしく国を治るに実力のある方にお譲りすること。
とりわけ、現・録尚書事殿や、太傅殿のような
人徳篤い適任者に依願を成してみる事。
―――この一文に目を通したアヱカは、例えそれが王の意思で書かれたものであるとしても、
意志薄弱の下で書かれたものであるとして、
また、弱った王の代理に自分が筆を執ったものを、正式な“遺言状”としていたのです。〕