≪四節;公主の涕≫
〔けれども―――これはそれだけでは終わらなかったのです。
なぜならば―――・・・
国王崩御の報せを受け、慌ただしく入室してくるある足音・・・
その足音の主こそ、このほどヴェルノア公国より一軍を率いてきた将軍―――
けれど、彼女はフ国王の事を『親父殿』と呼びました―――・・・
実の父親がいるのにも拘らず、他人同然である者の死を目の当たりにした彼女の眼からは、
すでに涕が盛り上がっていたのです。
そして―――たった今、王の最期を看取った者は、
“女傑”とさえ言われたこの女性の、意外なる一面を見ることとなるのです・・・。〕
婀:親父殿―――目を・・・目を開けてくだされよ・・・
妾でございます―――あなた様の娘である者が・・・ただいま参りましたぞ・・・
親父殿・・・親父殿―――!!
リ:あ・・・婀陀那様―――殿は既に、もう・・・
婀:だまれ―――!! この方が・・・こんなにも早く亡くなられる筈がないであろうが・・・・
そうじゃ―――きっと・・・妾を驚かせようと・・・(ポロポロ)
リ:(婀陀那・・・様―――)・・・・・・。
婀:(ぐず・・)さあ―――親父殿・・・目を開けてくだされよ。
そして、また妾と共に、遠乗りに出かけようではございませんか―――・・・
今度はどこがよろしいでしょうか―――パルティアあたりです・・・かな?
イ:公主―――
婀:おお―――それより・・・また将棋(チェス)のお相手をしてもらえぬでしょうや・・・
そういえば、妾は一度として親父殿に勝ったことはございませんでしたなぁ―――・・・
さぁ・・・今度は・・・・わ、妾が勝たせていただきますぞ―――
ですから―――後生ですから・・・今一度目を・・・目を〜〜―――!!
〔彼女は―――云うなれば“赤の他人”・・・
されども、そこにいたのは実の肉親よりも、その死を悼む者でありました・・・。
既に物云わぬ王の亡骸に顔をうずめ、まさに血でも吐かんばかりの勢いで、声を上げて哭く者・・・
この情景を目の当たりにした者は、果たして自分の父親が亡くなったときに、
こうまで哀しんだものだろうかとさえ思い、
だとすれば、この方がこうまで情に篤く、また涕もろい存在である事を知ったのです。〕