≪四節;悲愴なる決意≫
〔こうして―――次代の王になるべくの意思を確認し終えた使者は、一路ウェオブリへと戻ったのですが・・・
この別邸では、未だ留まってくれている者に対し、太子からはある決意の表れともいえなくもないものが、
語られ始めたのです・・・。〕
ヒ:アヱカさん―――それに、“古えの皇”よ・・・
もう一つ、私の莫迦な話を聞いてくれますか・・・
ア:ヒョウ様―――またそのような事を・・・
ヒ:前にも云いました通り、私の余命は幾許(いくばく)かもない―――
で、あるにも拘らず、私は父の跡目を継ぐ決意をしました・・・
ア:・・・まさか―――あなたは?!!
ヒ:フフ・・・さすが―――“古えの皇”である方は、察するのもお早い・・・
まあ―――見ていてください、この私も、歴史に名を遺す者となってみせます。
〔その者は、この別邸にいる自分以外の者・・・アヱカに―――女禍様に宣下しました。
曰く―――
“歴史に名を刻む者”
と・・・
けれども、その者は、同時に自分に遺された時間も限り少ない―――とも云いました・・・
では、これらの事から推論される事とは・・・
それは、この方の、この一言に集約されていた事でしょう・・・。〕
女:なんという事を―――・・・彼も、その身が丈夫だったならば、
彼の父にも見劣りしないくらいの名君になれたはずだろうに・・・
実に惜しいことだ―――・・・
ア:≫・・・女禍様―――≪
女:アヱカ・・・よく見ておくがいい―――これから、彼がなそうとする事を・・・
あたら、悪い事と知りながら―――暴政に身を染めて行かんとする者を・・・
ア:≫そんな―――暴政を?!! なぜ・・・そのようなことを―――・・・≪
女:・・・どうやら、彼は『歴史に選ばれた者』―――それも、良い面ではなく、むしろ悪い面で・・・ね。
ア:≫そ―――それでは・・・≪
女:そう―――彼こそは・・・“国を傾け、次代に望みを託する者”なんだ。
それにね、この国はショウ様が政(まつりごと)を行っていた事もあり、いわば“善政”の国家でもあったんだ―――
それを・・・次に政を行う者に譲歩をするには、ある程度国政を悪い方向にしなければならない・・・
“善政”である時期に、急に政というバトンを渡してしまっては、『簒奪の気があったのでは―――』
・・・と、云う声も少なからず出てくるだろうからね。
おそらく―――・・・彼はそのことを感じて、時代という“波”に呑まれようとしているのかも、知れない・・・
〔“時代”―――という妖物に見初められ、その身を捧ぐる者・・・
哀しい事に、この“病弱の君”がそうであると、“古えの皇”は認めました。
しかし、それは同時に、これから新しい王朝の幕開けとなるであろう―――ともしていたのです。
それに―――そんな彼の覚悟を聞き、影ながら彼の支えとなろうとすることを、
その胸に、密やかに誓いを立てたのでした。〕