<第六十八章;狐狩り>
≪一節;召喚状≫
〔その場所には、このたび“出向”という形で、ハイネス・ブルグに派遣されてきた者達が集まっていました。
しかし―――この五名のうち、三名の女性は元々ハイネス・ブルグの内政官でもあったのです。
ですが紆余曲折あり、ワケあってハイネス・ブルグからフ国へと亡命をしてきた・・・
そこをある方―――当時フ国の下に身を寄せていた“ある方”からの別命により、
ハイネス・ブルグの真北に位置し、元は列強の一つでもあり、
現在ではカ・ルマの版図に加わってしまった、クー・ナからのカ・ルマ軍の南下を抑えるために、
いわば“出向”という形で、各前哨基地に赴いていたのです。
そんな彼女たちが―――“雪”の宿将からの呼びかけに応じ、
彼女のいる エルランド砦 へと召集してきたのです。
それにはあるワケ―――そう・・・現・フ国右録尚書事であり、
彼女たちを故国でもあるこの国に派遣させるよう指示を出した者――― 婀陀那=ナタラージャ=ヴェルノア
その人物から、再掲の指示があったからなのです・・・。〕
リ:それで―――婀陀那さまからはなんと云ってきたの?
イ:リリア―――さすがに気になるようですね。
リ:当然じゃない―――! ヴェルノア公国の公主様と同じ存在の方を、私は蔑(ないがし)ろには・・・
イ:(ヤレヤレ・・・)実は―――然るお方からは、私に 尚書令 になってもらうよう要請があったのです。
セ:亡命をしたあなたが??
ギ:ほほう―――そこに目をつけるとは。
近頃新国王の横暴さが目に付く中、正しい判断も出来ているようじゃないか。
イ:ありがとう、ギルダス―――・・・
ミ:しかし―――この時期に、われらがこの国からいなくなってしまっては・・・
イ:そう―――今のミルディンからの意見の通り、ここで私たち五人がハイネス・ブルグから身を引いてしまえば、
ジュウテツ・ヨウテイに駐屯しているカ・ルマ軍は見過ごしてはくれないでしょう―――
そこで・・・私があなたたちに云っておきたいのは―――
〔さすがに、公主崇拝者であったりリアは、彼女からの指示が来た―――と、イセリアから聞かされ、
尋常ではなくなっていました。
しかし、そこを冷静になるよう諭したイセリアは、今回彼女の手元に来た指示の内容を、他の四名に聞かせたのです。
そこには、イセリアがフ国内政の中核の一柱として、尚書令になってもらうよう・・・
そしてまた、今いる地を離れてフ国へ戻って来るよう指示が出されていたのです。
そのことについては賛否両論―――
護る者がいなくなった隙を見計らって、南下をしてくるだろう―――黒き軍隊の事を憂慮する声や、
ようやくこの有能の士を、遠隔に飛ばしてしまった過ちに気が付いたか―――とする声も出たのです。
無論―――この砦・・・エルランドを空けるという危険性は、イセリアにはすぐにわかったのですが、
今を逃す時機ではない―――と捉えていた彼女は、
一つの助言を残し、彼女自身はたった一人でウェオブリへと赴いたのでした。
では・・・イセリアが仲間たちに残した助言とは―――〕
イ:ここは一つ―――私単独で王都に赴きたいと思います。
心配する事はありません・・・私を一人欠いたところで、あなたたちが敗れるような将ではないことは、
何よりこの私が知っています。
だから・・・ここは―――堪えず忍んで、時機を待ってください。