<第七章;小間物屋の女主人>

 

 

≪一節;或る小間物屋『キリエ堂』≫

 

 

〔さて・・・前のお話しの続きをするその前に、一人の人物の紹介を―――

この人物・・・この夜ノ街でも、中心街より少し離れた区画に居を構え、そしてとある事を生業(なりわい)として、生計を立てている人物だったのです。

 

では、この人物の生業(なりわい)・・・とは?

 

それが、ここの住人達・・・・そう―――盗賊や野盗達と同じではなく、云うなれば両替商のような事を生業としていたのです。

 

・・・が、しかし―――

この人物が取り扱っているモノは、盗品等の類ではなく、自らの手で創り出しているモノを商いとしている者だったのです。

 

しかも、この人物の創るモノというのが、なにやら不思議な呪(まじな)いがかかっているらしく、大層な評判だったのです。

 

それを証拠に、実際にこのお店で売っている装飾品や、アクセサリーを身につけると、不思議と病気や怪我をしないですむというのです。

 

それでは―――実際に、そこのお店で取り扱っている品物とは・・・・?

それがどうも、その商品という商品総てが、とても奇妙な形をしていて、年頃の娘さん達にしてみれば、絶対に身につけたくはないモノ・・・だとも云うのです。

(つまりは、それほどに奇妙な形をしている・・・・というのですが・・・・)

 

では、そのアクセサリーの奇妙性――――とは・・・・

それは――――・・・

――――青緑色をした、魚の鱗のようなモノ――――

(しかも、市場に出ている魚とは、ちょっぴりサイズが大きめ―――― いうなれば、大型の爬虫類の・・・・にも、見えなくはないようです・・・・が・・・・)

 

それゆえに、若い娘さん達は敬遠気味――――だったようです。

 

 

―――――が? 今、どうやらこのお店・・・「キリエ堂」から、若い娘さんを連れた親子連れが、出てきたようですよ――――?〕

 

 

客:どうも・・・・ありがとうございます・・・。

  うちの娘も、ここのお店の―――初めは気味悪がってつけるのを嫌がってたんですが・・・

 

  或る時、「サーベル・ウルフ」に、襲われそうになった時・・・丁度ここのを身につけてたお蔭で、向こうから恐れをなして逃げた―――と、いうんですよ・・・。

 

キ:(キリエ:92歳:女性:このお店『キリエ堂』の店主。

  年齢を見ての通りの老女。

  それゆえに、目も薄く耳も遠い・・・しかも、この街一番の古老だけあって、博識・生き字引―――と、称されている・・・ようだが??)

  あぁ〜〜〜・・・・おやおや、そうかい。

  このババの創ったモノのお蔭で・・・・人っ子一人の命が救われるとはねぇ・・・・。

 

  イヤイヤ・・・・長生きはするもんだ。

 

娘:うん! 初めは・・・・あたしも、こんな気味悪いの・・・って思ってたんだけれど・・・・

  あれ以来、ここのがすごく気に入っちゃってね・・・・それで、今日もここに来てみたの。

 

キ:それは――――ありがたぁ〜〜〜いことだねぇ・・・・うんうん。

  創り手冥利に尽きる――――ってもんさね。

 

客:ところで―――この、鱗のようなもの・・・どこで手に入れているんです?

  普通の魚――――に、しては・・・何か少し大きいようですけど・・・・

 

キ:ん――――? あ〜〜〜〜? ぁんだってぇ?

  すまないねぇ・・・・あたしゃ、見てくれの通り・・・・年寄りだからねぇぇ・・・・だから、耳が遠くていけないや・・・・

 

客:あ・・・・あぁ――――い、いえ・・・・。

 

 

〔この老婆――――キリエ・・・見ての通り、物腰もやわらかく人当たりもいいようなのですが・・・・

今のように、少し込み入った事を聞くと、自分が年寄りであることを理由に、上手くのらりくらりと、かわしているようなのです。〕

 

 

キ:はいよ・・・・毎度あり。

  また、お越しになって下さいよ・・・・。

 

客:それでは・・・・。

娘:ばいば―――い!

 

 

〔どうやら―――今の親子連れ、また一つ新しいアクセサリーを買ったようです。

 

それより・・・・この「キリエ堂」というお店、奇妙な噂がついて回る・・・というのも事実だったのです。

 

それというのも、時偶(ときたま)―――しかも・・・・夜半を過ぎたあたり、

何者か・・・・そう、言うなれば身の毛もよだつような、獣(けだもの)の唸る声のようなものが聞こえてくる・・・・だとか―――

逢魔ヶ刻(おうまがとき)の、店を閉める頃に・・・余りこの近辺で見かけないような美女が、このお店を出ていくところを見かけたり・・・・だとか―――

(しかもこの美女、お客などではなく、この店の主人・・・つまりはあの老婆のお使いで、出て行くところを見られているようなのです。)

こと、奇妙な噂については欠く事はなかったのです。

 

だから、こういう噂のせいもあってか、客足も疎(まば)らだったのです。

 

 

そして――――今、この時・・・また少し奇妙な事が・・・・

―――と、いうのも、前回のお話しで姫君と偶然(・・・・いや、これからの事を鑑(かんが)みると、“必然”・・・?)な、出会いをした、

ギルドの構成員の一人――――サヤが、なんとこのキリエ堂の前に・・・・

(ひょっとすると、彼女・・・このお店の隠れた愛好家で・・・・とも、取れなくもないのですが・・・・

ここでよぅく思い出して頂きたい・・・彼女が、前回のお話しの終わり頃、何を言っていたのか・・・・を。)

 

 

サ:ごめんください・・・・よ〜〜―――と・・・。

  あれ? いないようだな・・・。(よ〜し、それなら・・・)

 

 

〔このとき、ギルドの構成員が店内に入った時には、誰もいなかったのです。

 

しかし、それでは話が展開・・・いや、もといw

自分が何をしに、ここに来たのか分からないので、その構成員、店のカウンターに設置されている、呼び鈴を数回鳴らした所、この店の奥から・・・・〕

 

 

キ:はいはいよ・・・何も、そんなに呼び鈴鳴らさなくても・・・

  おや!? 誰・・・か、と思えば・・・サヤさんじゃあないかい。

 

  どうしたんだね? あんたが、こんなトコに顔を出すなんて・・・・「お山」と「お城」の主(ぬし)達が、騒ぎ出さなけりゃいいんだけどもね。

 

サ:ふふふ――――っ・・・相も変わらず・・・・と、言ったところだね、お蔭で安心したよ、キリエさん。

  私は、老衰かなにか―――で、早(はや)、くたばっちまった・・・ものかと思ってたよ。

 

キ:へッへッヘッ――――あんたの・・・・その、口の悪さも、大分(だいぶ)板についてきた――――ってトコだよ。

サ:ところでさぁ――――・・・・

 

 

〔今までの―――この老婆と、若い構成員とのやり取りを見ていると、お互いが軽口を叩き合える仲―――・・・

まあ云うなれば、永い付き合いの間柄――――でしかなすことの出来ないこと・・・・でもあったのです。

 

でも、だとすると・・・20歳前後の若い娘と―――もうすぐ一世紀・・・100年を生きるこの老婆と・・・

この二人を繋げる接点は、どこにあるというのでしょうか。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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