≪二節;組織を去る者・・・≫
〔そして―――いつしか・・・日もとっぷりと暮れ、宵の帳(とばり)が下りた頃、このお店から、今まで何を話し込んでいたのでしょうか・・・
この店の店主の老婆と、昵懇(じっこん)の間柄にしては歳相応ではない若い娘が、お互いが別れを惜しみあうかのように出てきたのです。〕
サ:それじゃ―――あのお方にも、よろしくね・・・
キ:あぁ――――あんたの・・・ところも・・・・ね。
サ:(じゃ―――・・・)
さて・・・・と、わが主上にも、早速この事を話さないと・・・・。
おっと、その前に―――こっちの仕事も、当分は出来なくなるし・・・
それに・・・短い間だったけど、あいつらにはいい思いさせてもらったことだしな・・・
辛いけど・・・お別れだ。
それと・・・もう一人、頭領にも一応の断りをいれとかないとな・・・。
〔どうやら構成員は、何かを為しえるために、このギルドを去るようなのです。
そのために、自分を「姐御」と呼んでいてくれた仲間と、この組織のトップ―――女頭領に、その旨を伝えるようなのです。〕
盗:は?え?? そ、ソ〜〜――なんすか? 姐さん。
盗:ンにしてもさァ〜〜姐さんいなくなると、さびしくなるよなぁ〜〜。
サ:ぉや、そうかい? だったら・・・用が済んだら、スッ飛んで帰ってやろうか?
盗:え゛・・・・?
サ:なぁ〜〜〜んて・・・な、冗談だよ、ジョ――ダン。
まっ、この用事もすんなりとは済むと思ってないし・・・当分の間、お別れって事だよ。
じゃ―――・・・・達者でやんな。
盗:姐・・・御・・・。
〔てっきり・・・いつものように、怒鳴られるものと思っていたら、まるで「永の別れ」になるかのような言葉に、目を丸くする彼女の子分達・・・。
でも、どうして、彼女がその時にそう言ったのか・・・・彼らには、窺(うかが)い知る事が出来なかったのです。
そして―――今度はギルドに赴き、女頭領に事の次第を述べる構成員が・・・〕
婀:なんと――――・・・・暇(いとま)を頂きたいと申すのか?
サ:・・・・・はい。
婀:・・・・ナゼに?
サ:ワケは・・・・聞かないでおくんなさい。
こっちの一身上の都合・・・・でも、ありますんで・・・。
婀:ふぅむ・・・然様か・・・・「一身上の都合」なれば、仕方のなき事よのぅ・・・・。
そなたの事は眼に留め置いておったのじゃが・・・・。
サ:いいえ―――それは、ありがてぇこって・・・。
それじゃ――――・・・
〔構成員サヤ、ギルドを去るに際しても、その理由まで語りたがらなかったのですが・・・・女頭領も、無理に引き止める事をしなかったのです。
(でも、目には留まってはいたようですが・・・・)
しかし―――事情が事情ならば仕方がない、また、そういう者を無理に引き止めても、自分に利のない事など、百をも承知だったのです。
そういう観点から、女頭領は惜しみながらも、サヤのその意思を汲むことにしたのです。
そして構成員が、ギルドの女頭領の執務室から出た直後、偶然にもお会いしたのが・・・・〕
ア:あら・・・あなたは・・・。
サ:おや、へぇ〜〜〜・・・あんた・・・ここに住み込みだったのかい?
ア:え?ええ・・・まあ・・・。
サ:ふぅ〜ん・・・ところでさぁ、あんた・・・・
ア:はい。
サ:あの・・・紫苑とかいうの・・・今、いないのかい?
ア:え? あ、あぁ・・・・あの方ですね?あの方でしたら―――ここの頭領の方のお使いで、今、出ておりますが・・・
サ:ふぅん、そうかい。
それで・・・・どこに?
ア:そうですね・・・確か、東の方面・・・とか。
サ:そうかい・・・・ありがと、分かったよ。
ア:あの、あの方に何かご用件でも?
サ:いや、ナニ、いるかいないか、気になってね・・・・ちょいと尋ねてみただけ。
(何せ、勘の鋭そうなヤツ・・・・だったからね・・・)
ところで・・・もうここには慣れたかい?
ア:ええ、はい、お蔭さまで。
サ:そう・・・だったらさぁ、「キリエ堂」・・・ってとこ、知ってる?
ア:はい? キリエ・・・・堂? いえ・・・・
サ:あはは・・・・まあ、さすがにそこまでは知っちゃあいなかったか・・・・
何しろ、ここでも随分と外れにあるからね・・・・ゴメンね、邪魔して・・・・それじゃあね。
ア:あ・・・・あっ―――
あの方・・・結局、何がおっしゃりたかったのかしら・・・?
〔そう、今はギルドの女頭領が招いた食客、という形に収まっている、あの姫君なのでした。
それにしても、この構成員、姫君にお会いした折・・・さりげなく、
姫のお付きであり、女頭領の片腕でもあるところの「紫苑」の、事を聞きだしていたようですが・・・・
それには姫君、「頭領のお使いで出ている」としたのです。
(ですが・・・・この“東の方面”というのも・・・)
そして今度は、この街に慣れたか―――と、これまたさりげなく、キリエ堂のことを話しておいたようです。
そう―――― 姫君と、構成員が交わしたのは、これだけ。
さして重要そうな会話がなされるわけでもなく、四方山話(よもやまばなし)で終わったようです。
それであるがゆえに、姫君も、この構成員の意図していることが分かるはずでもなく、彼女の背後姿(うしろすがた)を見送ったのです・・・・。〕