≪五節;ある噂に不釣合いの者≫
ア:うふふ・・・それでは、わたくしの用件は済みましたので、これで失礼させていただく事にします。
ナ:さてと・・・それじゃ、あたしも。
ア:あ・・っ、そうでしたわ?もう一つ忘れていました。
婀:(う・・・ん?)
ナ:どうしたんです?
ア:一つお尋ねするのですけど、この街に「キリエ堂」というお店があるのだそうですけど・・・ご存知でしょうか??
ナ:えっ?キリエ堂? キリエ・・・ああ、確か―――この街の随分と外れにある、アクセサリー屋だね。
ア:あ・・・ご存知でしたか・・・。
ナ:えぇ―――まあ・・・あたしら同業の中でも、変わってることで特に知られたところだからね・・・
何でもさ、そこの店主って、一世紀―――100歳近いお婆さんが一人で切り盛りしてる事だし―――ね。
婀:ふうむ―――その噂なら、妾も聞いた事があるな・・・。
しかし、姫君がナゼにそのような店舗の事を・・・どこでお知りになられたのか、妾にしてみればそちらに興味があるな。
ア:それは・・・・確か、サヤという方だったと思うのですけれど、ここに入る前にその方にお会いした折に、お聞きいたしたのです。
婀:なんと?!サヤ殿・・・に、でございますか?
しかし―――これは、またなんとも奇怪な・・・あのように若い娘が、100歳近い者と、どういった係わり合いが・・・
ナ:(ふぅん―――・・・)
ア:あの・・・ところで、そのお店で売っているモノとは、なんなのでしょうか?
ナ:え?あぁ・・・確か・・・これくらいの大きさ(手のひらサイズ)の、魚の鱗のような・・・・
そうだね、色は青緑色をしてて―――しかも、形も歪(いび)つでさ、年頃の娘さんなら身につけたがらない代物らしいよ。
婀:なんと・・・魚の鱗とな? (ふぅむ・・・)しばし待たれよ―――・・・
ナ:えっ?と・・・頭領??
婀:・・・おぉ―――・・・あった。
これの事か・・・・?
ア:(首飾り・・・・)
ナ:ぁあ〜ッ! これです、これ!! し、しかし―――頭領が、どうしてこんなモノを??
婀:いや、何―――これはな、妾がここの頭領に納まった時に、その店の者から戴いたモノでしてのぅ・・・。
しかし、その時に見えておったのは、確か・・・・20歳前後の娘さんじゃったような・・・。
ア:まあ・・・。
ナ:ふぅ〜〜ん・・・そういえば・・・その若い女性―――だと思うんですけど・・・
あのお店の近辺で、目撃されているようですよね・・・・。
ア:どなたなのでしょうか?
ナ:さぁ〜〜・・・まあ、邪推するには、あのお婆さんの姪かお孫さんか・・・・どちらにしろ、その辺りだね。
ア:そうだったのですか―――・・・
ナ:あっ、そうそう・・・それとね?
あのお店の、もう一つの噂としては、そこの商品を身につけた者は、絶対と言っていい程、人外の者に襲われにくい・・・って聞いた事があるよ。
婀:ほほぉう、ならば「魔除け」の呪(まじな)いでも施されておるのかの?
ナ:さぁ〜〜・・・でも、そういった噂話が絶えない・・・っていうのも、あの店の特徴でもありますよね・・・。
〔姫君、用を済まされたことでこの部屋を後にしよう・・・・と、そうしようとした矢先に、あの構成員の言葉を思い出し、この二人に聞いてみる事にしたのです。
それは―――「キリエ堂」の存在・・・・。
そして、それはやはり、鑑定士や女頭領も知っていたようで、その店について回る奇妙な噂話や、売りに出している商品の事まで、細かに知りえたようです。
そうして―――そのお店の場所を聞き、数ヵ月後に、実際にそこへ向かってみたところ―――・・・・〕
ア:ここ―――・・・の、ようですわね。
あら・・・「close」―――お休みなのかしら?
誰:あの・・・何か、うちのお店にご用なのですか?
ア:(え・・・)あ、あっ―――これはどうも・・・
まあ・・・なんて綺麗なお顔立ち・・・
誰:えっ?? あなた・・・w 随分とお上手な事をおっしゃるのね。
ア:えっ?い、いえ・・・・そんなつもりで申したのでは・・・
誰:よろしいですよ、あまりこちらも気にしていませんから・・・。
でも―――初対面で、いきなりあのようなことを言われたものだから・・・・。
ア:申し訳・・・ございません・・・。
ところで・・・あの、この店の方なのです?
誰:はい、ええ・・・・そうですが、何か?
ア:いえ・・・ここは、お婆さんが一人で切り盛りしていると聞きましたので・・・・
誰:あァ・・・・うちのお婆さんね? もうかなりお歳ですから・・・だから、代わりに私がお店番をしているんです。
そうそう―――― 私の名前、キリエ・・・っていうの、ヨロシクね?
ア:えっ―――キリエ・・・って、ここのお店の名前と同じ・・・
キ:ああ・・・うちの親が、面倒くさがり屋で、私を含める女子の名前も全員「キリエ」なの。
しかも・・・あろうことか、お店の名前までそれにしちゃうなんて・・・
ア:まあっ、そうだったのですか・・・。
ところで―――今しがたまで、「ciose」の札が出ていたようなのですけれど・・・?
キ:あぁ・・・そのことなら・・・ここ数ヶ月間、ある用件で私が出ていましたので・・・
だから、お休みさせていただいていたのです。
ア:そうだったのですか・・・・。
申し訳ありません―――込み入った事を聞いたりしまして・・・。
キ:いいえ・・・・かまいませんよ。
私だって・・・ほら、若い人って余りここには来ない事だし・・・お蔭で、いい話し相手になってもらえて・・・。
ア:そうでしたか―――では、お相子・・・と、いうことで。
キ:はい―――
〔ここに来た時、「ciose」という掛札があり、このお店がひょっとすると休みなのでは?と思ってしまった姫君、
少し残念そうな面持ちでその場を後にしようとしたのですが・・・・。
このとき、姫君のすぐ後ろにいたのは、歳の差は自分とそう変わりはない、若い女性がいたのです。
そして、その余りに端正な顔立ちに、思わず漏れてしまった言葉・・・
その言葉に苦笑しながらも、この若い娘は、姫君をお店の中に誘い入れたようです。
ところで―――姫君が、第一に疑問に思われたのは・・・このお店の主人は、齢100歳余りの老婆だということなのに・・・
すると、この若い娘が言うのには、「自分はその年老いた店主の代理」・・・だというのです。
しかも、その若い娘―――名前が、店の屋号と同じ「キリエ」だと云っていたようで、
またその理由にしても覚えやすいから――――だというのですが・・・。
(剰(あまつさ)え、一族の女子の名前が、全員一緒―――だとは・・・それでも、姫君はそれで納得したようです。)
それから姫君は、この込み入った事情を聞いた事を詫びたところ・・・店主代理の娘も、話し相手になって貰えて・・・・とまで云ってくれたのです。〕