≪三節;望まぬ契約の締結≫
〔時に―――ヒョウ愁元年・初夏・・・
遠大なる策を胸に秘め、再び故国の地を踏むことになったイセリアは、
まづ最初に、それぞれの砦に駐屯していたリリア・セシル・ミルディン・ギルダスらを招集し、
これから自分がなそうとしている事を、四人に打ち明けたのです。〕
イ:皆さんご苦労様でした。
あなた方の活躍は、陛下の耳にも入り、殊の外賞賛を得ています。
ギ:そいつは嬉しい事だが―――果たして本当に賞賛に値することなのかな。
リ:そうよ・・・第一、私はベルルーイを獲られちゃったことだし・・・
ミ:ですが―――セシル殿が追撃をかけたことで、黒色に塗り替えられる事だけは避けられた・・・
そのことだけでも戦功はあったと見ていいだろう。
セ:(ミルディンさん―――・・・)
イ:そうね―――そこはミルディンさんの云う通りだわ。
それに、婀陀那様も云われていた事ですし・・・
リ:えっ―――公主様も?
イ:それに、あなた方のほうでも、何も私が祝辞を述べるためだけに、ここに来たのではないことは、
既に感じているはず―――
ミ:それでは―――
ギ:まさか・・・
イ:フフッ―――勘違いを起こされては困りますよ、お二人とも・・・
―――これから私たち五人は、そろってハイレリヒカイトへと赴くのです。
セ:えっ―――
リ:ハイネスの・・・王都に??!
イ:その通り―――そこであの国と、ある契約を締結するのです。
〔そこでイセリアが述べたこととは、まさに形式通りの戦評定の上での祝讃の辞(ことば)・・・
けれど、それは所詮飾りでしかなく、するとまもなくイセリア自身の口から、
今回の政策のことが語られたのです。
するとやはり、仲間内でもそのことは“併合”という象(かたち)に映ったらしく、
今それをするのは時期尚早ではないか―――との声も上がったのですが、
次にイセリアは、自分たち五人が、そろってハイネスブルグの王都であるハイレリヒカイトまで赴き、
王の御前にて、ある契約の締結を結ばせる事を明言するにいたったのです。〕