≪四節;愁風・ハイレリヒカイト≫
〔そして今―――彼ら五人は、ハイレリヒカイト城内に・・・〕
官:お・・・おおお・・・そ、そなたらは、一体何をしにここへ?!
イ:あら―――これはご挨拶ですね・・・大臣。
それより、ハイネスブルグ国王、ランスロット=リオン=ヴェルトシュメルツ陛下は、いずこへおはしますか。
フ国尚書令・イセリア=ワィトスノウ=ドグラノフが、火急の用件で参った―――と、お伝え願います。
〔そこに居合わせた誰もが、今のイセリアの言葉に驚いた事でしょう。
なぜなら・・・元はといえば、イセリア・リリア・セシルの三人は、この国の出身者であり、
また優れた将官でもあった・・・
そんな彼女たちが、今ではフ国の官僚となり、期せずしてこの国に“火急の用件”として赴いている・・・
しかも彼女たち五人の出で立ちは、前(さき)の戦役そのままで来ているため、武装を解いてはおらず、
端から見れば“強制外交”のようにも捉えられなくもありませんでした。
それに、リリアにセシルも、最初はどういった用件でイセリアがこの国へと赴くのか―――
その真の理由を知り得ていなかったのです。
だから―――だったのでしょうか・・・ハイネスブルグ国王、ランスロット=リオン=ヴェルトシュメルツに直接謁見し、
その時紡がれたイセリアの弁に、言葉を失ってしまったのは・・・〕
王:(ランスロット=リオン=ヴェルトシュメルツ;ハイネスブルグ現国王。
かつては理想に逸(はや)る時期もあったが、敢え無く挫折・失道し、世には“傀儡”の見本のような君主として知られる。)
イセリア・・・ワィトスノウ・・・ドグラノフ、か―――何用じゃ・・・
イ:・・・お久しぶりにございます、ハイネスブルグ国王陛下―――
相も変わらず、お変わりございませんようで・・・。
実は―――この度私たちがこの国へと赴いたのは、私たちの国・・・フ国と、陛下の国ハイネスブルグを―――
官:な―――なんだと? 今そなたらは、フ国のことを 私たちの国 と云ったのか・・・?
官:一体どういうことだ・・・そなたらを生み、育んできたのは、我がハイネスブルグのはず・・・
官:それを―――なんだと? 今まで恩恵にあずかってきた祖国を、蔑(ないがし)ろに・・・
イ:今は私が発言している最中でございます!
そんな外交上の儀礼での常識をも忘れたのですか!!
お黙りなさい―――!!
官:うっ・・・うぅ―――
官:む・・・・むぅ―――
イ:突然に失礼をばいたしました・・・
されど、他国の特使が意見を述べている最中に、横槍を入れるなどと―――
そのような事、私がこの国で尚書令をさせてもらっていたときにも、赦した覚えなどありませんので・・・
王:う・・・うむ―――そうだな・・・続けてよいぞ・・・
イ:―――では、簡潔に申し上げる事といたしましょう。
私たちの国、フ国の将校であるこの四名を、現在彼らが駐屯している
グレスゴーニュ
ベルルーイ
エルランド
ダイスローグ
―――に、正式に護り預かることを、国王陛下の口より直接宣下していただきたいのです。
官:なんだと―――・・・
官:せ・・・正式に―――??
官:し・・・しかし、それでは、この国を間接的にフ国が統治するという事に―――
〔それは―――やはり思い過ごしなどではありませんでした・・・
実は、リリアもセシルも―――いや、ミルディンやギルダスでさえも、薄々に勘付いていた事・・・
『自分たちはフ国の人間である』
―――と、云う事・・・
それを代表して、イセリアの口から宣言されたとき、
自分たちはもうこの国の人間ではないという事を、思い知らされたものなのです。
しかも―――今までには“仮に”あの四つの砦に駐屯して、
よろしくカ・ルマの侵攻を防ぐ――と、云う口実があったのですが、
ではこれからは―――・・・?
その先手を取るため、自分を含める五人をして、ハイネスブルグ国王御前にて謁見をし、
正式に四つの砦を守護する事を、国王の口より述べさせることで承諾させようとしたのです。〕