≪三節;遽(あわただ)しい前線≫
〔それはさておき―――場所を、今回その標的の一つに宛(あて)がわれた、
カ・ルマにとっての“南方”、近接する中華の国の州の一つ、ガク州にて・・・〕
伝:伝令にございます―――
紫:なんでしょう―――
伝:はっ、かの黒き国の最南端に当たるアークダインの砦に、
数十万もの大軍が、集結している模様にございます。
紫:・・・そうですか、判りました―――
〔今回のカ・ルマの“南征”の一報を、いち早く聞きつけたのは、
以前、ガク州侵攻戦<グランデル戦役>の際、援軍としてこの地に駆けつけた、
ヴェルノアの“疾風の将”こと、紫苑=ヴァーユ=コーデリアなのでした。
彼女は―――自分の主である婀陀那の下命により、その戦場に“疾風”の如く現れただけではなく、
現時点をもってしても、引き上げの命も出ていなかった事から、
そのまま待機依存をしていたのです。
―――と、そんなところへ・・・“南征のための拠点への集結”を聞きつけた紫苑は、
未だに顔見せすらしていなかった、ガク州司馬の下へと参じる事にしたのです。〕
紫:―――失礼をいたします。
キ:―――するように・・・それと虎髭殿には・・・
ヒ:―――ん? なんだ、あんた・・・
キ:ベイガン、傾注―――
今は、私が指示を出しているのよ。
ヒ:ああ・・・いやぁ・・・でもなぁ―――大方、司馬殿を訪ねて〜・・・
紫:いえ―――こちらこそ、軍儀の只中であるとは知らず、お邪魔をしましたようで・・・
キ:(・・・この声―――)
(クル・・)―――あなたは・・・
ヒ:えっ?あっ・・・お、おい―――??
キ:―――・・・。
紫:―――・・・。
〔しかし、ガク州城の作戦室はいつになく遽(あわただ)しさがあり、
未だここが最前線である事をうかがわせる場面でもあったのです。
その最中(さなか)に、紫苑が途中で入ってきた事に、ガク州司馬の准将であったヒが気付き、
ついで州司馬である、キリエもそちらのほうを振り向いてみれば・・・
彼女たちはただ見つめあうばかり―――
ですが、それは彼女たち自身が初対面という事ではなく、
今にしてみれば、ようやくここで本来の彼女たちが向かい合った事でもあったのです。〕
キ:なるほど―――(クス・・)
あなたでしたか、前(さき)の防衛線の折、ヴェルノアより馳せ参じた援軍の将というのは・・・
これは失礼をばいたしました―――未だ混乱醒めあがらぬとは云え、
上級将校に対し、不敬の態度を取りました事を、深くお詫びをする次第でございます・・・
―――紫苑=ヴァーユ=コーデリア卿・・・。
紫:いえ、こちらこそ―――もうすでにかの国の軍兵が、かの国の最前線の砦に集結している事を知っていましたとは・・・
何も私だけの知識が、世の知識ではございませんでしたようで―――
キ:―――待って、それは初耳だわ。
紫:しかし・・・今、州司馬殿が指示していた事は―――
キ:私は―――ただ、カ・ルマより漂う不穏な空気を感じ取り、兵の分散を行っていたまで・・・
何も、最前線に兵の集結を知った上での事ではないわ。
―――それよりベイガン、今までに出した私の指示を総て取り消し、
たった今入った最新の情報に対処すべく、これから新たに紫苑卿と作戦を練り直します。
それまでは各自待機をしておくように伝えて。
ヒ:おう―――判ったぜ。
〔紫苑が見たそれは、今まさに自身が得た情報を、自身より先んじて取り入れ、
既に対処していたガク州司馬の姿なのでした。
ですが、実はそれはそうではなく―――
なにやら、カ・ルマからの不穏な空気を感じ取っていた州司馬キリエが、手探りの状態で行っていたモノであり、
たった今、紫苑からもたらされた情報により、カ・ルマの軍勢が、次にどこに狙い定めつつあるのか―――を、知ったのです。〕