≪五節;不条理の中の条理≫
〔それはそれとして―――ヴェルノアの将紫苑を迎え、西方の守りを固めようとしたキリエは、
各将の配置を次のようにしました。
紫苑―――ランペス(グランデルの砦をすぐ北に臨む、
この度新しく構築された砦)
ヒ―――ペルテネローゼ(ガク州城とグランデルを結ぶ重要拠点の一つ)
副将1―――パルキネッセ(近接するギ州に一番近い砦。
おそらくギ州に応援の要請を見込んでの布石と思われる。)
副将2―――ベクニンガ(ランペスとザハトムンスクの中間拠点。
これを見る限りでは、この拠点が最終防衛線のようにも見えるが・・・)
この四人の将の配置は、各々の特性を生かした絶妙なまでのモノでした。
―――が・・・やはりここで一番気になるのは、州司馬キリエのいる場所・・・
しかしそれこそは―――〕
紫:ザハトムンスク・・・隣国のラージャに一番近いとされる・・・
キ:その通り―――これからは長期的戦略に鑑み、隣国はラージャからの要請があれば、
私がその先陣を切る所存でいるのです。
紫:なるほど、それに私の担当となった拠点も、彼奴らの狙っていたグランデルではなく、
すぐ近くに砦を築き―――
キ:いかにも・・・グランデルには 囮 になってもらいます。
―――が、カ・ルマは即座にこれを看破し、容易には攻め込まなくはなるでしょう。
紫:―――つまり・・・その余波で、ラージャへと侵攻せざるを得なくなってくる・・・と。
キ:気の毒ですが―――こうするより仕方がありません・・・。
それに、カ・ルマのほうでも、南征の準備は着々と進められてきていると聞きます。
おまけに、ここの土地は度重なる侵攻により、荒らされてしまっている・・・
他者に、荷を背負わせる―――と、取られるかもしれないけれど・・・
これは 戦 という不条理における条理なのよ・・・。
〔そう・・・此度からのキリエの居場所こそは、隣接する“列強”のラー・ジャに一番近い、ザハトムンスクなのでした。
そして、そこに見られる意味も、確約たるものであり、以前よりの戦評定では奥まった拠点に鎮座し、
中々戦場には出てこない州司馬の印象とは、全く別のモノでもあったのです。
その意味の流れを汲み、各々の配置に赴く将たち・・・
―――なのですが・・・
先ほど、云われなき暴力を振るわれたのを不満に思っているのか、
ヒは席を立とうとはせず―――
いや、しかし――――・・・?〕
キ:どうしたのベイガン、他の人達は―――
ヒ:・・・なあ、キリエさんよ―――
あんたまだオレたちのことを信用してねぇのかい・・・
キ:―――なによ、また・・・
ヒ:だって!・・・そうだろうがよ―――
あんたがラージャに一番近いところにいる・・・って事は、
近々あるかも知れねぇ、やつらの侵攻を食い止めるために・・・・
キ:フッ―――・・・私は、何も総てを請け負えるほど優秀ではないわ。
それに・・・私がそこに布陣する真の狙いは、“七魔将”の一角を切り崩すことのみ。
だから―――ヤツらが出撃したと知ったなら、余り無茶をしないで退いて・・・
あなたも大いに感じたはずよ―――“七魔将”のうちでも、最も下位の実力のワグナスでさえ、
あなたたち人間にとっては、天敵であることを・・・。
〔人間たちを見下した覚えはない―――けれど、他の准将レベルと比べれば、
“七魔将”のうちでも最弱だといわれたワグナスでさえ、人間の・・・
ガク州・ギ州・ジン州・ヴェルノアの連合軍は苦戦苦慮するしかなかったのです。
そこのところを配慮した今回の布陣・・・
時には気弱な部分も垣間見せたりもする、ガク州の州司馬が、
人間の姿で魔軍と相対峙する、最初の戦となったのです。〕