≪三節;諫議大夫、自身を悔ゆる≫
〔今現在では、アヱカ自信の居住となっているシャクラディアにては、
アヱカは従者のタケルと共に、なにやらの座談をしている最中のようでした。〕
ア:タケル―――どうも私という人間は、意気地がないようだ・・・
こうなってしまう事を予め知っておきながら、ヒョウ殿の健気なる振る舞いを見て、
急に胸がつまり・・・耐えられなくなってしまった・・・・。
こんな主を、君は笑うだろうか―――
タ:いえ・・・決して―――
それこそは、アヱカ様の、“人を思い遣るのココロ”がそうさせるのであって、
臆病だとか、意気地がないのだとか―――そういうものではございません。
ア:だが・・・私は―――自らがなさねばならないことを放棄し、
こんな処へと逃げ込んでしまっている・・・!
タケル・・・私は、自分という人間が怖いくらいに情けない―――
イセリアさんや婀陀那さんたちの前では、さも自分が出来るような事を広言しておきながら、
ほんのこれっぽっちも、役割を果たしていない自分自身が―――・・・
ああ・・・タケル―――これからの世は、ますます混沌へと導かれ、人々の生活などが圧迫されていく事だろう・・・。
なのに・・・私は―――私は―――!!
〔それは―――命の残り灯(び)を、人々から恨まれることにのみ費やそうとしていた、新フ国王を・・・
見るのも居た堪(たま)れなくなり、自らの役割を放棄してしまった者の姿なのでした。
しかも、世間での評定―――余りにも厳しくしつこく諫言するを疎ましがられて、
新フ国王に追いやられた・・・と、云うのも、
どうやら後から附随された―――いわゆるヒョウのほうが気を遣い、
これまた世間での、自分の評価を下げる一因ともなっていたわけなのです。
その・・・余りにもの任の重さに耐えかね、シャクラディアへと逃亡したアヱカ・・・
まさか―――自分が、ヒョウを追い込もうとしていたなんて・・・
そのことを気付いてしまったとき、自分の不甲斐無さ、意気地のなさに悔恨の涕を流していたのでした。
けれど、タケルは、こんなにも自分の事を悔い改めている主を、別段責めるでもなく、
ただ黙って、反省の弁を聞いてあげていたのです。
そして―――やおら口を開くと・・・〕
タ:そのことを、あなた様ご自身が既に解かっておいでであれば、
これからでも遅くはありません、すぐにでも王都へと戻るべきでございます。
ただし―――蟄居の期限内に出るのでありますから、そこにはそれ相応の非難があってしかるべきでしょう。
ですが―――それにつきましては・・・(ぼそ〜)
ア:―――!
・・・だが、果たしてそんな道理が通用するのだろうか―――
タ:しないまでも―――やらないよりかはましです・・・。
それとも、これしきの挫折で理想を放棄するなど、あなた様の意志は弱かったのでございましょうや。
ア:・・・そうだな―――いや、本当にそうだった。
ありがとう、タケル・・・お陰で目が覚めたよ、これからもこんな私を、支えておくれ・・・。
〔ヒョウは―――存知の通り、その半生をサナトリウムで過ごした、いわゆる 病重の君 でした。
そんな者が、果たして地方地域の特産物を腹に収め、滋養と出来ていたのでしょうか・・・
―――否。
彼は、平民達が垂涎とする旨い物を、自分の滋養とするでもなく、
逆に―――その総てを・・・
宴が終わった後に、吐いてしまっていたのです・・・。
つまり、そんなことも見て知っていたアヱカは、ついぞ見るに耐えなくなり、
任期の中途でお役目を放棄して、シャクラディアへと逃げ込んでしまっていたのです。
そして今、そんなことではいけないと思い、
アヱカ自身が一番に信頼を置いているタケルを前に、総ての告解をしていたのです。
すると、主の心情を須らく把握した者は、自らが考案していた政策を授けると、
急遽ウェオブリに戻るよう促したのです。〕